彼女の外面暴露してもいいっすか?
文化祭午後のメインイベント「自己主張」
体育館の舞台袖で今か今かと出番を待つ。
緊張と胸の高鳴りが同時にやってくる。
俺は一番最後になった。
原稿用紙を何度も読み返す。
高校最後の文化祭俺が最高の形に締めくくるよ。
俺の前の人が終わったそうなので実行委員会から舞台に出るように促される。
「それでは本日最後の自己主張される方――3年1組の渋谷哲平くんです! どうぞ!」
司会の言葉とともに俺が入場すると、ギャラリーの拍手が沸き立つ。
ギャラリーの中にはスマホを片手にスタンバイしているのがちらほら見える。
たーにーとりなねえが体育館の後ろに立って見える。
「今日は高校生活最後の文化祭なので、日頃の彼女に想いを伝えたいと思います」
ギャラリーから「だーれー」の合唱。
「僕の彼女は菅原あやさんです。幼馴染でもあります。周りからラブラブでいつも一緒にいて羨ましいとよく言われます」
「そんな菅原さんの姿を皆さんにお伝えします」
俺は実行委員会の方にあらかじめ用意していただいたノートPCとスライドを出した。
PCはマイク台の中に入っているのでギャラリーから見えない。
『皆さんの知らない菅原あやの世界』と銘打ったタイトルが出てくる。
ギャラリーが一体何が始まるんだと言わんばかりに顔を見合わせている。
「まずこちらです」
スライドに映し出されたのは今年のバレンタインデーであやからもらったチョコレートである。ハート型や星型にして袋詰めにしたものである。
「こちら菅原さんから頂いた方いらっしゃいますかー?」
すると女子数十人が手を挙げた。
美味しくておしゃれともらった女子の間で評判になっていた。
「僕が頂いたのはこちらです」
スライドに映し出された写真は星型とハート型のチョコレート。
形が崩れて原型が分からず。
あやに「目の前で食べないと殴るから」と言われ渋々食べた。
その翌日体調不良になって一日寝込んだ。
「すがわらさーん、皆さんにあげたチョコレートのつくり方わかりますかー?」
実行委員会のスタッフが気を利かせてマイクをあやの方へ持っていった。さすが仕事が早い。
「・・・き、急に言われても・・・」
あやが口ごもる。
「それもそうですね。皆さんが頂いたのはデパートのお菓子売り場で買ったものですから」
「続けてこちらの写真です」
スライドに映し出されたのは一ヶ月前たーにーとりなねえが撮影した俺があやにやられたときの傷。
「うわぁ痛そう」「どうしたんだ?」のギャラリーの声。
「これは全て菅原さんが僕にしたことです。こういうことも言いますよ」
スマホに録音したものを流す。
『とっと失せろこのクズ』『役立たずだから土に埋めてあげる』などなど暴言のオンパレード。
「これ菅原さん?」「ひでぇな」のギャラリーが口々に呟く。
「うそよ! これ私じゃない!」
「ちーがーうーだろー! あいつの嘘よ! このハゲっ! 死ねばいいのに!」
あやは暴言を吐きながらギャラリーから舞台の方へズンズン進んでいく。
ギャラリーが"モーセの十戒"のように道が開かれる。
舞台に乱入したあやは俺が使っているマイクをぶんどって「余計なこと言うんじゃねぇ! 死ねばいいのに!」とあやは強い口調で俺の頬をビンタ。
そして「みなさん渋谷くんの様子が変ですねーどうしたんでしょう?」
いつもの外面いいときのあやの口調になる。
「さっきの暴言と菅原の声一緒・・・だよね」「口悪すぎ」とギャラリードン引き。
「菅原さん一旦退場しましょ。渋谷くんもそろそろ・・・・・・」とタイムキーパー係が早く終えるように促す。
「これだけ言わせてください」
大きく息を吸って。
「――皆さんに聞きます。俺は菅原さんの外面の良さに疲れたのでもう別れていいっすか?」
ややあって「いーよー!」のギャラリーの大合唱が返ってきた。
俺は「ご清聴ありがとうございました」とさっきのビンタの痛みをこらえながら、舞台から退場した。
実行委員会担当の人に出した原稿と今日俺が読んだ原稿は若干違う。
多少の編集に目をつぶってくれるからね。
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