第5話 王国歴□□□□年□月□日

ここに泥にまみれ、虫に食われ、もう原型さえ保っていない本がある。かろうじて文字が読み取れるページを追うと、どうやらこの本は、誰かの日記帳らしい。

まるで秘め事に触れるようで、胸がドキドキする。 


パラパラとめくると、砂が舞い上がる。

泥と埃に……少し金臭さが混じる……独特な匂い。

喉にツキンと刺激が走り、数回むせた。


あまりにボロボロで、触れたら崩れてしまいそう。


慎重に、そっと優しくページをめくる。

虫眼鏡をこらし、考古学書と照らし合わせつつ、古代文字を鼻息荒く翻訳する。

…親愛なるあなたへ?

…外の国?

…竜?

…竜使い?

……この……竜…と同じくらいの大きさで首だけが異様に長い、網目……もようの馬……ってなんかキリンみたいね。 


あれ………ここで突然終わっている。

この日記帳、最期の十数…ページは白紙のままだ。

途中で書くのをやめてしまったのか…それとも…何らかの理由で



この日記の持ち主がどんな人だったかは、もう調べる術も無いけれど、まるでおとぎ話を読んでいるかのような…何て夢のある素敵な日記なのだろう。

この日記帳の持ち主に思いを馳せて、最後の…真っ白なページを穴が開くほど見つめる。




……過去の世を生きた親愛なるあなた様。



あなたはどんな気持ちを抱きながら、

この日記を綴ったのですか?



  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

竜の翼の向こう側に、2人の瞳が写したものは。 ◆梨元小鳥◆ @kotorinashimoto

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ