第18話 最終話

ベッドの中、悟は珍しくリカに甘えていた。


「いやぁ、俺、頑張ったわ」

「はいはい、合格おめでとう。大学、心理学専攻だっけ?」

「そう」


悟がリカの手を自分の頭に置く。

よしよし、リカはそう言って悟の髪をくしゃくしゃにする。


「結局、悟のやりたいことって何だったの?」

「リカは何だと思ってた?」

「……旅だっていってたから、自分探しかなんかだと思ってた」

「自分探しって……。俺、かっこわる……」

「言わないのが悪いでしょ」


そう言うと、リカは悟にキスをした。


「何だって応援するけどね」

「可愛いこと言うね、リカちゃん」


悟もキスを返す。

そのまま始まってしまいそうで、リカは悟を体から剥がす。


「あ、待って待って、答え聞いてから」

「……臨床心理士」


「ふーん、それってカウンセラーみたいな?

「そうそう、そういうやつ」


悟は少し恥ずかしそうに言った。


「ずっと人の心理に興味があって。困ってる人助けられるし」


照れている悟を見て、かわいい、とリカは思った。


それで心理学か。

ふと、タクミを思い出す。


「そうだ、そういえばタクミの父親、東大院卒なんだって」

「すげーな」

「タクミ、私の心理読むの、本当に上手かったんだよね」

「……あいつはマジでどこまでわざとなのか、解らないからな」

「悟もそう思った?」


うん、と言って悟は話し出した。


「前、学校に来た時あったじゃん?」

「ああ、体操服の」

「うん、あの時さ、電話があったんだ」

「え?誰から?」

「学校の事務員なんだけど。中山くんのお母さんが来るかもしれません、って」

「え?それって……」

「タクミが事務員に、俺に電話してって頼んだらしい」


ああ、やっぱり全部わざとだったんだ!


「俺、猛ダッシュしたからね、あの時」


ははは、とリカは笑った。


「そういえばさ、私も気になって聞いたんだけど」

「うん?」

「いや、ほらミナミ、何故か駐車場に来たじゃない?」

「ああ、そういえば……」

「あれもタクミだった」

「え?」

「ミナミに言ったんだって。自分が塾の時は、先生とあの駐車場にいるって。スマホのGPSで解るって」

「お前、タクミと位置共有してたの?」

「うん、すっかり忘れてたけど……」


しばらく黙り込む二人。


「全部、知ってたんだな」

「うん、頭がいいと思ってたけど、遺伝子が違うってことだったのかもね」


参った、というように、おでこに手のひらを当てる悟。


「俺、心理戦であいつに勝てる自信ないわ」


確かに、とリカは思った。

少なくともリカの心理状態を読むことに関しては、悟はタクミより格下だ。


「……タクミには幸せになってほしい」


そうリカが言うと、悟は笑って言った。


「お母さんもお父さんも二人いて、幸せにならないわけないよ」


そうかもね、とリカも笑った。

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運命の人 ミライ @mirai0730

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