第17話 再会

タクミが卒業して、一年が経った。

あの夜以降、悟からの連絡は一度もなかった。


悟の退職で噂が噂を呼び、尾ひれが何本もついた教師と保護者の禁断愛は、一年という時間をかけて、すっかり関係者の記憶から消えていた。


何しろ当事者が全員いなくなったのだから、当然だ。


リカもタクミと悟のいない寂しさからやっと立ち直り、日々を過ごしていた。


今頃、どこにいるのかな?

悟は行き先も、帰る日も教えてはくれなかった。


待ってろって言ってたけど、本当に帰ってくるんだか……。

いつも自分勝手なんだから。


春のある日。


何の前触れもなく、悟はリカの自宅にやって来た。




「だ、大学生?」


一年間、悟はずっと受験勉強をしていた、というのだ。


しかも、悟の自宅で。


「……どうしてそういうウソつくの?信じられない」

「収入0で親にパラサイト、引きこもりニートの状態をリカに見せるのが耐えられない」

「そんな理由で、『旅に出た』ってウソついたの?」

「ウソじゃないよ、知の探求、という旅だ」


リカは怒りを抑えられなかった。


「私がどれだけ寂しかったか……」


怒ったリカを気にもせず、悟が言う。


「それにほら、お前といると、さ」

悟はリカの体をじろじろ見た。


「……何よ」

「性欲に勝てる自信がない」

「……相変わらず最低」


悟は笑って、


「ただいま」


そういうとリカをギュッと抱きしめた。


「やべえ、今すぐ挿れたいわ……」

「絶対嫌だから。バカじゃないの」


くるりと向きを変え、リカは悟の腕の中で背中を向けた。


「……後ろからの方がいい?」

「本当にバカ」


悟はリカの首筋にキスをする。


「ねぇ、私、怒ってるんですけど?」

「知ってる」

「許す気、ないですけど?」

「どうかな、リカは俺が好きだからな」

「今でも好きか、解らないでしょ」

「え?」


リカはくるっと体を反転させて悟を見つめた。


「一年間、私に何にもなかったと思う?」


悟はリカを見つめている。

本気かウソか。リカの態度から図りかねているようだ。


「……確かめていい?」

「ダメです」


二人はしばらく見つめあった。


「私、好きな人できたの」

「えっ……」


悟が明らかに動揺する。


「俺のいない間に……」

「そうだよ?だって一年ほったらかしたんだよ」


リカの言葉に悟は反論できない。


「ほ、本当に好きなのか?そいつのこと」


「うん、本当に大好き」

リカは笑う。


そして真顔に戻って言った。


「……あやまって」

「え?」

悟が驚く。


「ウソついて私をほっといたこと、あやまって」

「……許してくれるの?」

「言ってくれたら、考える」


悟はリカをきつく抱きしめる。


「リカ、待たせてごめん」


リカは黙っている。


「お願いだから俺のこと、もう一回好きになって」


「……もうウソつかない?」

「うん、約束する」


悟が泣きそうな顔をしている。


「見せてあげる。私の好きな人」

リカはスマホで写真を探しはじめた。


「……マジかよ」


見たいような見たくないような……。

悟は自分の手に汗が滲むのがわかった。


「これ!」


リカのスマホには、ミナミと、ミナミに抱かれた赤ちゃんが写っていた。


「タクミの弟!可愛いすぎる」

リカが笑って言った。


「お前……、いや、なんでもない」


悟は何か言おうとしたが、少し頭をふって、またリカを抱きしめた。


「悟、まさかこれで許された、なんて思ってないよね?」

「え? えと、どうすりゃいいの?」


困った顔の悟に、リカは言った。


「ちゃんと責任取ってもらえます?」


二人は笑った。

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