第16話 お別れ
「しばらく離れたいんだ」
三日前にタクミはミナミの元へ移った。
リカ1人になってしまった自宅に、悟は来ていた。
「え……?今、何て?」
リカは何を言われたか信じられず、思わず聞き返した。
「学校にバレた」
悟は笑って言った。
「ど、どうするの……」
いつかこんな日が来る。
二人とも考えない日はなかった。
とうとう来た、リカはそう思った。
「まあ、タクミは母親の所へ行ったわけだし、お互い独身で問題ないって押し通せばいいんだけど」
「……うん」
リカは悟の次の言葉を待った。
「学校、辞めようと思ってる」
「え?」
リカは驚いて聞き返した。
「俺、思ったんだよね」
「思った?何を?」
リカが聞いた。
「実は養子なんだ、俺も」
悟は笑っている。
「……養子?それが何か関係あるの?」
「まあ、な」
悟が自分の事を話し始めた。
中学生の時、両親が他界したこと。
親戚の、子どもができなかった初老の夫婦に声をかけられたこと。
最初は養子縁組に反発したが、結局は子ども1人では何も出来ず、従うしかなかったこと。
とにかく義両親には可愛がられたこと。
「やっぱり俺も、金出してもらってる訳だし、気を使うじゃん?」
リカは黙って聞いていた。
「一度、進路を相談した事があるんだけどさ、反対されて」
「……うん」
「危ないこと、悪いことはやらせてもらえなかったかな。心配なんだろうな」
悟は続ける。
「教師は親に勧められてなったんだ。割と好きなんだけどさ、なんかリカたち見てたら考えちゃって」
「何を?」
「親に本当にやりたい事、言ってもよかったのかな、とか」
「……先生の他に、やりたいことがあるの?」
リカが聞く。
「まあ、そういうこと」
「それって学校やめないと出来ないの?」
「うん、そう思ってる」
リカはそう、とだけ言った。
「ずっともやもやしてたんだけど、なんか吹っ切れた、というか。親の愛を信じてみようかな、と」
リカは黙っている。
「それで準備もあるし、まあ、色々噂も収まるだろうから、ちょっと離れようかと」
悟が明るく言う。
「……どのくらい離れるの?」
リカは下を向いたまま言った。
「もうすぐタクミたちも卒業だから、一緒に俺も学校辞めて、一年間旅に出たいんだ」
旅……?
リカは言った。
「悟さ、正直に言ってよ」
「うん」
「私が嫌になったなら、ちゃんとそう言って」
悟が驚いた顔で言う。
「なんでそうなるんだよ?」
「会いたくないんでしょ、私と」
リカは怒っていた。
「そんな遠回しなことしないで、はっきり別れるって言えばいいじゃない」
「……別れないよ」
サトルはリカの腕を引き、抱き寄せようとする。
「やめてよ」
リカは抵抗する。
「旅にでも何でも出ればいいよ、やっと自由に会えるようになるのに、1年間も会えなくて平気なんて、そんなの好きじゃないのと同じだよ!」
リカは泣き出してしまった。
「何でそんなに勝手なの?私のこと、一番好きだって言ったくせに」
悟は黙っている。
「みんな、やっぱり離れていくじゃない!私のことなんてどうでもいいみたいに……」
まだ、悟は何も言わない。
「……何とか言ってよ!」
「リカ」
「何?」
「抱かせて」
「……最低!」
リカは反発したが、悟の力にねじ伏せられてしまう。
「こんなの、いやだよ」
泣きながらリカは悟を拒否した。
悟は無理やりリカの服に手を入れようとする。
「いやだってば……!」
「リカ、俺のこと信じられない?」
手を止めて、悟は悲しそうに言った。
だから、その声、反則なんだって……。
リカは少しだけ、抵抗をゆるめる。
悟がキスする。
「好きだよ」
「うそつき、ごまかしてるだけじゃん」
「……言っても解らないから体に教えてるんだ」
激しいキスをしながら、悟がブラのホックを外す。
「悟、いやだよ」
悟は手を止めてくれない。
「私より、やりたいことの方が大切なんでしょ?」
リカは、自分で言った言葉に、また泣きそうになってしまった。
「リカ、信じろよ」
「……待って悟、やだ……」
「待たない」
ははっと笑って悟は言った。
「お前、俺がどんだけ待ったと思ってんの」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます