第4話 終演

「さ、この物語はここまでです。どうでしたかな?ちょっとは気晴らしになりませんでしたか?うちの店の名前は『リンドウ』ではありませんが、一人悩んでいるあなたに寄り添わせていただければと思いましてね。」

店主はわざとらしく両手を拡げて笑顔で物語の終わりをそう締めくくった。

「うーん、というか話始める前に恋物語って言ってませんでした?どこが恋物語なんですか、ちっともキュンキュンしなかったんですけど。」

「おやおや、ちょっと話のチョイスを間違えましたかね。これは失礼いたしました。私のような年寄りには、枝垂しだれ君の淡い恋物語だと思ってしまいましたが、若い女性とは、やはり感覚が違ったようですね。」

「どっちかといえば、女性に感情移入してしまっていたかな。私もなかなか連絡が取れていないから。」

「あー、そんな思いつめた顔にならないでください!せっかく、明るくなってもらおうと思ってお話したんですから!なんでしたら、もう1つとっておきの話をしましょうか?」

慌てて店主はどの話をしようか考えているのかぶつぶつとあれでもないこれでもないと独り言をし始めた。まるで明るい気持ちで帰らせなくてはならない理由でもあるかのように。

「いえいえ、いろいろと考えさせられる話だったわ。自分の考えていることとは相手は違うかもしれないってこと、相手は別の人間なんだから当たり前のことだけど、改めて理解したわ。それだけでも、今日ここに来た甲斐があったわ。ありがとう、ごちそうさまでした。明日もがんばります。また来ますね。」

そう言って、彼女は明るい様子で店を出て行った。


ぎいいいいい、、、、、、、、、、、、、、、、


「えぇ、もちろんまた来てください。今度は、本来のあなたらしい明るい物語となって。」


店主はそう言いながら年季の入った書架の間を歩いていた。


コツコツコツ


「さぁ、お戻り、、、、、、」


店主が棚に戻した書籍にはリンドウがあしらわれ背表紙にはこう書かれていた。


「あなたに寄り添えば」



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あなたに寄り添えば 雨月紫陽花 @einsame-nacht

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