03作品目

10話.[不安にさせない]

「山口くん」

「ん？　あ、なんか久しぶりだね」

　残って課題のプリントをしていたら津郷さんが話しかけてきた。

　三島君と付き合ってからは更に明るくなったからよかったと言える。

　教室内の雰囲気というか僕に対するそれはあまり変わらないけど、まあそんなことを気にしても仕方がないから彼女に意識を向けた。

「あのときはごめん」

「またそれ？　いいんだよ、怒鳴って僕も少しスッキリできたし」

「あと、思わせぶりなことをしちゃって……」

「いいよ、梛月さんが一緒にいてくれているから」

　なんでかは分からないけど。

　僕は駄目な人間が好きな稀有な人だと考えている。

「あ、て、テトラはっ？」

「元気だよ、いつも会いに来てくれるんだ」

「私も行っていいっ？」

「いいよ、いまから行こうか」

　時間的に丁度いいぐらいだ。

　いつも通りであればテトラも来てくれるはず。

　あの真っ白ふわふわな女の子を愛でていると落ち着けるからなあ。

「にゃ～」

「こんにちは」

　どこか遠慮しているみたいだったから抱いて渡したら凄く幸せそうな顔をしていた。

　やれやれ、津郷さんは結局よく分からなかったなあ。

　ある程度のところで「帰るねっ」と残し走り去り。

　テトラもまた１度鳴いて向こうの方へ歩いていった。

「にゃ～」

「あれ？　あ、なにやってるんですか」

　またこれ、簡単にテトラがまた来たのか？　と振り向いてしまう自分が馬鹿としか言いようがないことだ。

「もう浮気したのね」

「違いますよ、テトラに会いたいって言うから連れてきたんです」

「ふーん、猫を口実に渚沙さんといたかったのね」

「違いますって、僕が好きなのは梛月さんですからっ」

「どうだか……」

　これじゃあまるで僕が梛月さんの告白を受け入れたみたいだ。

　それで心配になって監視しているというか、うん、そんな感じで。

「嫌よ……」

「大丈夫ですから」

「……あなたの家に行きましょ、ご飯を作ってあげるから」

「はい、今日もお願いします」

　できる限り不安にさせないような行動を心がけようと決めた。

　別になにかをするわけじゃないんだから連絡をしておくべきだったと後悔したのだった。