09話.[柔らかかったな]

「あ、あの、梛月さん、もう夕方ですけど……」


 ずっと離さないと言っていたのは決して嘘ということではなかったらしく、トイレとかお昼ご飯の時間以外はずっとこちらの腕を抱いてきているままだった。


「離さないって言ったわよね?」

「でも、これ以上続けられるとその……やばいので」

「やばい? 昨日あれだけ必死に抱きしめてきていたのになにがやばいの?」


 アレな話だけど梛月さんの胸が大きいんだ。

 だからずっと腕にふにょんふにょんと当たって、その度に必死に抑えなければならなくなるから大変だった。これは男にしか分からないこと、そういうのもあって梛月先輩に言ったところでほとんど意味のないことではあるけど、言っておかないとやばいことになるから仕方がない。


「あ……そういうことね、わ、分かったわ、離れるから」

「……ありがとうございます」


 梛月さんが彼女になってくれたというだけでもありえない話なのに、これじゃあね。

 いきなり過激すぎる、こればかりはゆっくりにしてもらわないと暴発してしまうから。


「ふ、ふふ、あなたも男の子だものね」

「からかわないでくださいよ」

「昨日なんてあんなにぎゅっと抱きしめてきて、ドキッとしたわよ」

「絶対に嘘ですよね、僕なんかじゃ梛月さんをドキドキさせることなんてできませんよ」


 ずっと負けたままではいられないけど勝てるような日はこないと思う。

 それでもいいから梛月さんの側にずっといたい。


「あら、そんなことはないわよ?」

「そうですか?」

「ほら……あなたといるとこうなってしまうから」

「ちょっ、なっ、ななっ!?」


 その柔らかな感触に今回は抑えることができなくて、気恥ずかしさを誤魔化すように彼女の体を思いきり抱きしめる。


「……駄目ですよ、そんなことをしたら」

「……だったらそんなことを言うのはやめてちょうだい」

「分かりました、やめますから」

「ええ、それなら私も……また今度にするわね」


 こんな感じで健全とは言えない時間を過ごすことになった。

 ……柔らかかったなあ。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る