自分を曲げられない頑なさが災いし、二度も里親から見放された孤児の朔(さく)。施設でその日をやり過ごすように生きる中、ひとりの男性が里親になりたいと現れた。彼は変わり者の自分から見ても変わった人物だったが、朔は彼が約束してくれた金銭的援助ほしさにうなずき、彼の家へ行く。そして頼まれるのだ。庭に建つ大きな蔵の整理を。
朔くんという主人公は、人の情に共感できない人物です。そして里親となる「泉さま」もまた、人としては大分欠けた人物。そんなふたりが、形ばかりではありますが子と親を演じることで、人でないもの同士の打算的な関係から、人同士の情による関係を築いていくのです。
なんでもない生活の中、互いにこれまでの半生で得られなかったものを得ていく大きなとまどいと淡い喜びは、たまらない切なさとなって読む者の胸を締めつける。
親と子が互いを育てるように、人もまた互いを育てるもの。そんな感慨の風情と余韻とをいっぱいに味わわせてくれるヒューマンドラマです。
(「縦から始まる主従の関係」4選/文=高橋 剛)