第24話 額縁
怒濤の連休が終わり、ようやく蔵の作業に戻ってきた。
泉の世代のものはほとんど捨て終えたし、泉の親の世代のものもだいたい片づけ終えた。ここから先は戦前だ。しかし戦前の人たちはまめに蔵の中を整理整頓していたらしく、先日も見かけたように比較的新しい層からすごい古文書が出てくることもある。
このたび軍手にマスクの重装備で引っ張り出したのは絵画だ。額縁が、横五十センチ、縦八十センチくらいの大きなものだ。
おそらく油絵だ。そんなものの表面を勝手に触ってもいいのか少しためらったが、どうせ泉は捨てろと言うだろう。捨てるものならどれだけ汚れても問題ない。
軍手の指先で細かな塵を払った。指の形にくっきりと跡が残った。
何度か撫でると、絵の全容が見えてきた。
家族の肖像画だった。洋風の椅子に着物の女性が座っており、彼女のこどもたちだろう四人の幼児が周りで立ったり座ったりしている。
いつの時代の誰だろう。泉の祖母か、曾祖母か、さらにその上の世代か――着ている着物からでは判別できない。西洋画だから明治より前にさかのぼることはないだろうが、明治も百六十年前の大昔だ。
朔は肖像画をしげしげと眺めて、この屋敷の歴史を思った。
自分はこの歴史の輪に連なるのか。
だからと言って何をするわけでもない。この人たちになつかしさやいとしさを感じるわけではない。親近感など微塵もない。
だが、家をもつのも悪くない。
そう、悪くないのだ。
泉は朔にどれくらいのものを継がせたいのかな、と思う。
ひょっとしたら、この蔵の中を掃除させるのも勉強の一環かもしれない――というのはさすがに考えすぎか。
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