第23話 ささくれ
ようやく連休最終日、双子が静岡に帰ることになった。朔は淡々とその事実を受け止めていた。いてほしいとも思わないし、いなくなってほしいとも思わない。強いて言えば、泉がぴりぴりするのでもう来ないでほしいかもしれない。
「気をつけてね」
見送りのためだけに文恵がわざわざ来てくれた。よっぽど双子が好きなのかと思いきや、小鳥ちゃんがお友達と映画に行って時間に余裕ができたから、とのことだ。
「ありがとう。行ってきます」
爽やか好青年の昇はそう言って文恵に微笑みかけた。
「ふみさんも無理しないように。あとあんまり翼にLINE連続送信しないであげて、翼から俺あてに愚痴メッセージが来た」
「や、やだ! あの子ったら何を! サイアク!」
「小鳥によろしくね。また年明けに遊ぼうって言っといて」
悟がもうぼろぼろのスニーカーを履きながら顔をしかめる。
「お前ヒマだな。バイト忙しいんじゃなかったのかよ、なんで翼と小鳥とそんな連絡取り合ってんだよ」
昇が珍しく悪い笑顔を作った。
「悟が嫌いだから連絡よこさないんじゃん?」
悟が押し黙った。
「じゃあね。朔も風邪ひかないように」
昇の大きな手が伸びる。朔の頭を撫でるように優しくぽんぽんと叩く。朔は頭に触れられるのもこども扱いされるのも嫌だったが、ここで振り払ったら変な空気になるに違いない。
昇の手が離れる。
大きな手だ。
飲食店でバイトをしている彼の手は荒れている。ホールでのアルコール消毒、キッチンでの洗い物、いっぺんにこなしている彼は働き者だ。
「悟、昇」
それまでずっと無言で突っ立っていた泉が、ようやく口を開いた。
双子が同じ顔で泉を見た。
朔も泉の顔を見た。
彼はいつになく真剣そうな顔をしていた。
「次に帰ってこられるのはいつになりそうですか」
双子がまったく同じタイミングで目をぱちぱちさせる。
朔の耳には、泉の声が少し硬く聞こえた。ひょっとして、緊張しているのかな。
「次に帰ってきた時には真面目に家の話をしましょう」
「なんだよ、改まって」
「朔を正式に養子として迎えようと考えているので」
朔の時間が、一瞬止まった。
「そうすると事実上兄弟になるのでね。もう少し踏み込んだことをお前たちに話しておかないといけないと思うんです」
昇が微笑んだ。悟の表情も少し和らいだ。
「うん、ありがとう!」
昇のその言葉に、泉も安心したのだろうか。
「ま、勝手にしろよ。俺はこの家のことは全部どうでもいいから好きにしろ」
「残念ながら悟はまだ戸籍を抜いていないので」
「そうね……俺は戸籍がもうこの家じゃないので」
「……そういうリアルな話やめろよ」
双子が出ていく。悟はさっさと坂を下っていったが、昇はいつまでもいつまでも手を振っていた。
「――やっと出ていった」
そう言って泉が息を吐くと、文恵が「もー」と声を上げた。
「泉さまのお子さんでしょ、どうしてそんなガチガチなんですか」
「よく言ってくれますね、私がどんな子育てをしてきたか見ていたくせに」
「まあ……、はい。まあ、いいんじゃないですか、結果良ければすべて良しですよ」
「本当に良しなんですか、あれは」
泉と文恵が屋敷の中に入っていく。
朔はしばらくその場に突っ立っていた。
「朔?」
立ち止まったままの朔に気づいて、泉が振り返る。
「どうしました? 早く来なさい」
手招く泉の手は家事を一切しないからか綺麗だ。
「はい」
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