第14話 うつろい

 朔がこの屋敷に来て明日で二週間になる。


 文恵が買ってきてくれたみかんをこたつで食べる。

 泉は転がって文庫本を読んでいて、朔はスマートホンでゲームをしていた。


 ゲーム、と言ってもいわゆるソシャゲではなく、ひとり遊び用のパズルゲームだ。泉に制限されているわけではない。朔はキャラクターものがあまり好きではない。


 静かだった。


「朔」


 声をかけられた。

 泉のほうを見ると、彼は自分の胸に本を置いた状態で朔のほうを見ていた。


「退屈じゃないですか?」


 何と答えようか悩んだ。


「手持ち無沙汰ですが、嫌ではありません。人生にはぼーっとしている時間が必要です」

「老人のようなことを言いますね。十四歳でしょう」

「朔は普段脳味噌がフル回転なので時々休ませる必要があります」

「機械のオーバーヒートじゃあるまいし」

「ロボットかもしれません」


 あまりにも人間らしくないので。と思ったが、なんとなく泉も同類であるような気がしていたので言うのはやめた。


 いつだったか、泉が、自分のことを説明したら朔に嫌われるのではないか、と言っていたことがある。朔は泉とのこの距離感を気に入っているので泉を嫌いになどならないと思う。けれど朔に嫌われるかもしれないと思って朔の顔色を窺う泉が興味深いので言うのは控えている。


 不思議な感じだ。


 朔は自分が誰か特定の人間を好きになるとは思っていなかった。嫌いな人間は時々いたが、それもどこか薄っぺらで、排除すれば引きずることもない。

 だが、今泉が朔を施設に返したら朔は不満を抱えると思う。泉に、どうして朔を捨てるんですか、と詰め寄ると思う。


 朔にも快と不快はある。この居心地の良さを知ってしまったらこどもたちが騒いでいる施設は不快だ。


 とはいえ、泉も気まぐれなところがある。朔もたまに迷惑をかけたら泉に捨てられるのではないかと思うこともないわけではない。言わなくてもいいことは言わないのだ。それが朔なりの処世術で、泉とのうまい付き合い方だった。


 人間は変わる時には変わるものだ――ついさっき自分をロボットかもしれないと言ったばかりのくせに自分も都合のいい人間だ。


 季節は秋から冬へうつろっていく。朔はその変わり目をこの屋敷で過ごす。


「では、運動します。山の中を走ってきましょう」

「行ってらっしゃい」

「泉さまも一緒に行きましょう」

「行ってらっしゃい」


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