第12話 ふわふわ
午前中いつもどおり蔵で作業をしていた朔は、正午の町内放送のチャイムを聞き、屋内に戻ってきた。寒さに震えながら、だ。朝方寒いのは慣れてきたが、昼間になっても気温が上がらないのはつらい。
昼食のために使っている、居間に相当する十二畳の部屋に行く。
誰もいなかった。
いつもならこの時間には文恵がここで昼食を並べているのに。
「朔、朔」
隣の部屋から声がする。泉の声だ。
「こちらに来なさい」
ふすまを開け、部屋を覗き込んで、朔は思わず「わ」と声を出してしまった。
六畳の続きの間で、文恵と泉がふたり向かい合ってこたつを出していた。
こたつ!
「遅くなってごめんなさいね」
天板を置きつつ、文恵が言う。
「なんだか最近ばたばたしていてこたつ布団を干せなくて。今日思い切ってコインランドリーで一気に乾燥させてきたの」
こたつのすぐそばにしゃがみ込む。
こたつ布団をつかむ。
ふわふわだ。
「朔ちゃん、可愛い。朔ちゃんのおめめがこんなにきらきらしてるとこ見るのは初めてだわ」
文恵がころころと笑った。
「じゃあ、蔵のお仕事がない間はここでごろごろしてね」
「いいんですか」
「もちろん、そのために出したんだから」
さっそく泉が足を突っ込んだ。彼も寒かったのだろう、珍しく「あー」とうめくような声を出した。
「やだ、泉さままで。こんなことならもっと早く行ってくればよかった。言ってくだされば急ぎましたのに」
「この家、古い家だからかエアコンの効きが悪いんですよね」
なるほど、道理で寒いわけだ。
こたつに入ってひと息つく。生き返った気分。
「ゆっくりしててね、私はお昼の準備をしてくるから」
文恵がそう言って立ち上がったので、手伝わないといけない気がして朔も立ち上がった。こたつが名残惜しい。でも文恵が帰ったらごろごろしたい放題だ、と思うと、胸の奥がぽかぽかする。
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