第3話 落葉
泉がそろそろ朔に仕事をしてほしいと言うので、もっと踏み込んで何をしたらいいのか尋ねた。
確か、施設を出る時には、掃除や整理整頓をしてほしいと頼まれた、と思う。しかし昨日、平日には専門のハウスキーパーの女性が来ることを知った。朔が特別掃除をしなくても、朔の周りはきちんと片づいている。
「そうですね」
泉は縁側に立ち、庭を指した。
「朔に主にやってほしいのは、あの蔵の中の整理です」
泉の指先をたどると、庭に大きな蔵が立っている。黒い屋根瓦に白い漆喰の壁の、一般家屋なら一戸建てひとつ分入りそうな蔵だった。
蔵の周りには楓が葉を広げているが、赤くなっているのは先端だけで、全体的にはまだ緑だった。山の中は下界より多少涼しいとはいえ、この辺の地方では十一月上旬だと紅葉は見られない。
「掃除はしなくていいんですか? 落ち葉拾いとか。まだ少し早いかもしれませんが」
「あの蔵の中の掃除は大変ですよ。何せ三百年くらい前からありますし、この十数年では誰も入ったことがないんです」
泉の顔を見た。
彼は遠くを見ていた。蔵を見ている感じじゃないな、どこを見ているんだろうなあ。
「
もみじ、というのは人間の名前だろうか。この家に誰か人間が住んでいたのだろうか。泉はあまり人間らしくないので、人間と同居するのは難しかっただろうな、なんてことを朔はぼんやり考えた。朔も自分をあまり人間らしくないと思っていたのでちょうどいい気がする。
結局、朔はもみじというのが何のことなのか訊かなかった。今いないもののことは朔にはあまり関係ない。話したくなったら話すだろう。そう思い、朔は聞き流した。
「でもいいですね、落ち葉拾い。家政婦さんたちは屋敷の中に落ちてきた枯れ葉はみんな山の中に捨てに行ってしまうのですが――まあ自然に還るのでそれで結構なのですが、たまには焚き火でもしたいですね。せっかく朔がうちに来てくれたんだし、変わったこともしたいですねえ」
「はあ。泉さまがやりたいなら」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます