第21話「神の塵しか与えられなかった者たち」
議員たちも黙っていない。議員といっても今ではその権力が薄れている。
「こうなれば、頼るしかない」
「何をするつもりだ」
「国を無に帰すのさ」
「そんなことをして意味などあるのか」
「考えている暇はない!」
「これが成功すれば我らは神の一員であるぞよ」
ザックという男によって実験体は逃がされてしまい、一度は頓挫した計画。
人間でも神になれるだろう。そう考えて始めていた計画だ。
その計画を今、再び成功させる。全員が神の力を手に入れる。
しかしその計画は既にレイチェルたちにも知られていた。
「やっぱり、それはしちゃいけないこと?」
レイチェルの言葉にヴァンが頷いた。
「神は不可侵。人工的に神を作ることは赦されない。本当の神を侮辱しているも
同じですから」
「成功するとは思えないがな」
口を挟んだのはエスメラルダだった。
「根が腐ってる奴らに力を貸す神が何処にいる。そう言う話だよ、これは」
「じゃあ逆に、力を貸してくれる人って?」
「それは俺も知らない。だがそうだな、そこの4騎士になら貸してくれるだろ」
レイア、ベディヴィア、エレオノール、ユーフェミアの4人には適性があるのでは
無いかと彼は推測した。
「力に耐えられる強靭な肉体と精神が無ければ神はおろせない。あんな老いぼれに
与えるのは精々死期の早まる仮初の力だろう」
静まり返っていた部屋。アイシャが何かに反応し、窓のほうを見た。
「どうやら本当に脳の無い老人たちのようだな」
黒い巨人だ。それも4体いる。彼らは辺りを徘徊するのだ。
その様子は遠くからでもよく見える。
神の力を使うには力が必要である。老人程度が扱えるものではない。加えて彼らは
自分の利益に目が眩み悪を成した存在。例え国民が真実を知らずとも神は
彼らの罪を知っている。
「知っているかい。神の力は二つある。我ら人間にとっていい影響を与える力と
悪い影響を与える力。後者は神の塵と呼ばれているのさ。研究者たちの常識」
アイシャは博識だ。
そして自分の事を理解している。素直な人間だ。しかし彼らは理解していない。
自分たちが国の王だと、神の代理人であると勘違いしている。
この町の人々がどれだけ彼らに苦しめられてきただろう。
誰のおかげでそこまで自由が出来たのか、彼らは理解できていない愚か者だ。
「しょーもない老いぼれにはそろそろ罪を背負って貰わないとね」
レイチェルは呟いた。その言葉に全員が頷いた。
「結界は私が張っておこう。被害は少なくしたい」
「ではあの巨人の始末は私たちがやります。もとより、そのために私たちは
いるのですから」
既に騎士団も顔を揃えていた。その前に巨人について知らなければ。そこで役に立つのがレイチェルの眼だ。遠くからでも細かい詳細を得られるようになっていた。
黒い巨人を不出来神と命名。
不出来神、その正体を見てレイチェルは――
「何も問題ない。力は強い、硬いけど勝てない相手じゃない」
レイチェルが面白そうに言った。
「では私たちは村人たちをここに避難させよう。念のためな」
ジャネットとサラが避難誘導を担当する。残ったのはレイチェルたちだが。
屋敷を数百の人間が取り囲んでいた。黒服、敵だ。
「リア、アイビス、エスメラルダ、ヴァン。4人で片付けられそう?」
4人は大きく頷いた。問題はなさそうだ。ならばこう声を掛けるしかない。
「ここで誰かが死ぬのは許さない。だけど死ぬ気で戦って来い!!!」
レイチェルの力強い言葉に全員が押されて行動を始める。外に飛び出していく騎士団
サラとジャネット、そしてリアたち。
「思いのほか、頭数を揃えて来たな。リア」
「数だけだろ。何も問題は無い。このまま殺すだけだ」
リアの眼が怪しく光った。軽く彼が睨んだだけで彼らは少しビビる。目の前の獣が
笑みを浮かべた。
「どうしたよ?来ねえのか?だったら、俺から行くぞ!!!」
全員が動き出した。
屋敷の地下ではアイシャが既に結界を張る準備に入っていた。
「中々上手いな。レオンハート」
「そうか?お前が俺に合わせている物だと思っていたが」
「偶然にも魔力の波長が近かった、というのが理由だがな」
一度、二人は口を閉じた。アイシャが再び口を開く。
「これで次の王が選ばれる」
「…最後の戦い、ということか」
「あぁ。レイチェルの陣営に入った者全員が国を魔の手から救い出した」
異世界生活の王候補者生活計画書 花道優曇華 @snow1comer
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