第20話「両国3本勝負②」

ユーフェミアの対戦相手は根暗そうな男だった。

ユーフェミアも、他の面子も彼に対してどう反応すればいいのか困っていた。

剣士らしくない風貌、騎士とも言い難い。

ならばこの男、ギドランという男は何なのだ。それでも試合は始まってしまう。

彼はどうやら危うい男のようだ。ジャネットは嘘を見抜くことが出来る。

ギドランを国の最高戦力の一人であるとベルフレアは語っていたが

それは嘘だ。この男は極悪人だ。


「ジャネット、少し良いかい」


そう声を掛けてきていたのはアイシャだった。この会話は出発する直前のときに

交わされたものだ。


「ベルフレア・L・グランディーズ。確かに良い王だが狡猾だ。その勝負にも

彼の狡猾さが出るに違いない」

「はい」

「そこでスパイを用意した」


足音も立てずに姿を現した男はジャネットも知っている。だからこそ顔をしかめた。

彼女の反応を見て彼はげんなりとした。


「そりゃ、そういう反応するよな。分かってたけど結構傷つくぜぇ…」


ハーヴェストの幹部の一人、エスメラルダ。表では処刑されたことになっていたが

今はアイシャの部下として動いていた。


「ま、不満そうな顔するなよ。そもそも元の職をクビになってるんだ。悪さを

するつもりはねえよ」

「…嘘ではないようだな」

「とにかく、その勝負の絡繰りは彼に任せると良い」


そして第一試合終了後にエスメラルダはジャネットに声を掛けたのだった。


「次の相手、犯罪者だ。騎士でもねえよ」

「…あぁ」


だからこそ、敢えてユーフェミアには負けてもらう。勝てる見込みがあってもだ。

そうして相手を舞い上がらせるのだ。八百長試合だと相手に悟られないように

くれぐれも注意しろとユーフェミアに釘を刺していた。

次の勝負が最高位の試合となる。

剣聖エレオノールとタレイア帝国の剣聖ハリベル。二人が対峙していた。

彼らは穏やかな表情で少しだけ言葉を交わす。二人の会話はそれぞれのリーダー、

ベルフレアとジャネット、そして他の仲間にも聞こえていない。


「王様もせこい方法を使うよね。僕はやめとけと言ったんだけど」

「大丈夫。その辺はしっかり対策済みさ、良い感じにベルフレア王も機嫌が良い。

既に噂が出回っているはずさ」


ハリベルを相手にエレオノールは自身の剣を抜いて見せた。その剣は国の宝剣

ペティスフレア。赤みがかった美しい刃を持つ。

ハリベルもまた自身の自慢の刀を見せる。夢剣マサムネ。二つの美しい剣技が

今、ぶつかり合う。


「お疲れ、ユーフェミア。上手くごまかせたみたいだな」

「えぇ。努力はしました。しかしこれからどうするのですか」


この第三試合は制限時間が設けられている。どちらも残っていれば同点という扱いに

なるのだ。


「大丈夫だ。エスメラルダが噂を撒いた。すぐにでも話は広まるはずだ」

「全くアイシャ殿には頭が上がりませんね」

「そうだな。あの人は国でもトップクラスの知恵を持っている」


ジャネットは二人の試合を見守る。ユーフェミアもエレオノールのほうを見た。

激しくも見る者を圧倒させる美しい剣技をどちらも持っている。二人の実力は

互角だ。

正直、どちらが勝っても可笑しくない。

だからこそ時間制限を設けているのだ。そうするようにジャネットが頼み込み

ベルフレアが承諾した。彼と何度か、この勝負についての会話を交わした。

真実の中に時折、嘘を混ぜている。この男、最初から真っ向勝負をする気は無い。

安いプライドばかり掲げていたのだ。そんな男にも天罰を与えてやろう。


「ベルフレア王!大変です!!」


一人の騎士がパタパタと走っていき耳打ちする。狡猾な王の顔が真っ青に

なっていく。外から聞こえる罵声を聞きジャネットはふと笑みを浮かべた。


「そうだ。言い忘れていたことがある。私に嘘は通用しないぞ」

「はぁ?」

「貴様に王になる資格は無いな。貴様の負けだ、ギドランという男は国でも有名な

殺人鬼らしいな」


ジャネットの言葉に彼は冷や汗を流す。


「この勝負、ベルフレア・L・グランディーズの反則負けとする!異論がある者は

いるか!!!」


彼女の問いかけに誰も反応しなかった。彼は膝を折り、仕方なく彼女たちに協力

することにした。3番勝負とは名目だけ。本当は相手の弱みを握って形だけでも

彼らを協力者にしようというアイシャの恐ろしい作戦のうちである。

国を出てすぐに再びエスメラルダと出会った。


「役に立ったかな?ジャネット嬢」

「あぁ。少しだけだが見直した」

「そりゃよかった」


彼はまた姿を消してしまった。あまり表舞台には出られなくなってしまったと

彼自身が語っていた。もしもレイチェルが王になったら彼の罪を

赦すのだろうか?

そんなことは考えなくても分かるようになっていた自分がいる。

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