第19話「両国3本勝負①」

ハルモニア王国と隣接している大国、タレイア帝国。

その国との小競り合いは何度か起こっていた。帝都、皇帝が住まう

宮廷にジャネットと三騎士がやってきた。帝都ではその話で持ちきりになって

しまった。

皇帝ベルフレア・L・グランディーズはジャネットと対面し話を進める。


「手を貸せだと?ふざけた娘だ」

「ふざけてない。まぁ、上の人たちが独裁政治を始めて戦争になっても

良いなら別にいいよ。一方的に言ってるわけじゃない。三番勝負をしよう。

折角こっちには最高戦力が揃っている。手合わせという名目で…

負けるのが嫌なら受けなくても良いですよ」


こういう相手には積極的に挑発しようと彼女は考えた。それにこちらも

その勝負について理解している。承知のうえでの提案だ。

数時間前に遡る。


「まずは隣国から味方につけよう。っていうけど、そんな簡単じゃないよね…」

「そうだな。だが実力行使なら何とかなるだろう」


ジャネットがそう言った。中々の爆弾発言だがその後の言葉が決め手となる。


「今、こちらにはユーフェミアとベディヴィアとエレオノールの三騎士が揃っている

こちらに迂闊に手を出してこないのは国の主戦力が全てここに集中しているからだ」


その三人の存在が相手にとっては威嚇されているように感じるのだ。

今のレイチェル連合軍は正しく虎の威を借る狐の状態だ。


「三本勝負をすればいい。向こうにも精鋭がいるからな。少し煽ってやれば

難なく相手はこちらの条件を呑んでくれるだろう」

「流石だわジャネット…!」



これは彼女自身が考えた作戦である。さぁ、相手はどう出る?予想以上に粘る。

ならばこちらも粘るしかない。


「負けるのが恥ずかしいのですか。私は恥ずかしくなどありませんよ」

「クッ…生意気な餓鬼め。良いだろう、条件を呑んで勝負を受けてやる」


ジャネットは3人を見た。互いに頷く。

小競り合いが続いていた国同士の最高戦力三つが互いにぶつかる手合わせ。

両者が揃っていた。


「最初っから俺かよ…」


第一試合、隻腕の騎士ベディヴィアと剛腕の戦士ゴルド・ホーシン。

ベディヴィアは巨漢を見上げた。その手には身の丈ほどの巨大な剣がある。


「相手が悪かったなぁ隻腕坊主。これは勝負をするまでもねえか」

「へっ、俺は坊主扱いかよ。こっちも色々重い奴を背負ってるからな、少なくとも

お前みたいな筋肉ダルマに負けるつもりはねえぞ」


動きにくいと騎士団の制服であるマントを脱ぎ捨てた。切断された片腕には

相変わらず包帯が巻かれていた。槍を握る腕は袖に覆われていない。

ベディヴィアの存在はつい最近知られるようになった。だから相手側は誰も

彼を知らないのだ。

体だけ見れば確かに勝負はついている。だがこれは力だけの勝負ではない。

騎士としてどちらが優れているのかという勝負である。

自分たちの勢いをつけるために大切な最初の試合を黒星で飾るわけにはいかないと

ベディヴィアは自身に渇を入れる。ふと視線を横にずらすと不安そうに見つめる

ジャネットがいた。そんな彼女を安心させるようにベディヴィアは微笑を浮かべて

槍を振るう。


「知ってるか。この槍、意外と重いらしくてさ。4キロ近くあるらしい。常人が

片手でどうにか持ち上げられるのは3キロぐらいなんだとさ」


つまりはそれだけの力はあるんだぞ、と彼は言いたがっているようだ。

レイチェルは一度だけ握ったことがある。軽く振り回しているものだから

自分なら両手で持てるだろう。軽く考えていたせいか随分と重く感じたのを

覚えている。

槍が、大剣が、剛腕を持った二人によってぶつかり合う。力と力の真っ向勝負だ。

ベディヴィアには速度勝負という手もあったが彼は敢えてそれを選択しなかった。

片腕だからどうした?片腕でも戦えるんだぜ。

惜しくも顔を逸れて空を貫いた槍を見てゴルドは称賛した。


「口先だけではないようだな。よくぞ、そこまで鍛えたものだ」

「アンタほどにはなれないがな」


ベディヴィアは果敢に槍を振るい攻撃を仕掛ける。その槍は大きな剣によって

弾かれる。巨漢が歯を見せて笑った。

切れ味は無い。だがその重い剣で薙ぎ払われればダメージは大きくなる。

片手も塞がっており着地は出来ず地面を転がる。立ち上がる前に巨漢が

彼を蹴り払う。ベディヴィアは地面を転がって攻撃を避けた。


「やはり若いな。何の為にこの勝負をしているのだ」

「…決まってるだろ」


ベディヴィアは立ち上がり槍を構える。


「主君の願いを、叶えるためだ」

「あの娘か?」

「あそこまで猛々しい人じゃない。穏やかな人だ」


その返事を聞きゴルドも敬意を表して大剣を構える。


「ならばこちらも本気でいかねばな」

「そうだな。長過ぎても待ってる奴らが暇をするだけ」


再び動いた両者が雄叫びを上げる。

槍と剣がぶつかった。競り合っていた二つ。剣はついに槍によって貫かれ―。


「・・・・イ…オイ!大丈夫か、ベディヴィア」


体を起こす。ベディヴィアの全身に痛みが駆け巡った。


「今はゆっくりしていろ。よくやった、最初の勝負は私たちの勝利だ」

「…そうですか。それはよかった。なら僕はここで休んでます」

「あぁ、そうしろ。レイチェルもきっと私の立場なら何が何でも

寝ていろと言ったはずだ」


ジャネットの言葉にベディヴィアは苦笑を浮かべた。優しい主は、中々自分たちに

無茶をさせてくれないのだ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る