棺桶

 にいちゃんとつないだ手がいたい。

 四角い箱の中に、黄色い顔に白い粉をぬられたねえちゃんが、口をあけ、ぽかんとした顔で寝ている。


 ちょっと前、ねえちゃんが箱に入る前に布団に寝かせられていたとき、ねえちゃんに白い服を着せたおねえさんが何度か口をとじさせようとしてたけど、できなかったからだ。あきらめておねえさんはねえちゃんの口にピンクの絵の具を筆でぬっていた。カサカサの唇にはうまく乗らないようだった。


 これからねえちゃんとお別れをするらしい。もう会えないんだよって、にいちゃんはいってた。もう会えない。ねえちゃんはこの後、もえちゃうから、もう会えないんだって。


 そんなのかなしい。


「バイバイ」


 箱がしまってて、顔のところだけ窓がついてて空いてる。そこに顔をおしつけるようにして、にいちゃんはつぶやいた。


 ぼくはそれをにいちゃんに抱っこされながら見ていた。もうねえちゃんに会えないのが、なんだか寂しかった。もう会えないって、どうゆうことだろう。もう会えないってなんだろう?


 話せないってこと、

 ギュってだきしめてくれないってこと、

 頭をなでてくれないってこと。


 ねえちゃんは、「もうしんだ」んだって。「しんだ」ってことは、「もう会えない」ってことなんだって。


 そうなんだって…………。


「泣いてんのか」


 ほっぺをぬぐわれた。よくわかんない。だって、にいちゃんが悲しそうだから。ぼくもかなしい。さみしい。


「なんとなく、わかるんだな……」


 抱きしめられてむねがキュウってなった。

 ほそくて高い、ちっちゃな音だった。

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掌編小説集 michi-aki @michi_aki

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