58. 百名家
「暦で言えば大陸暦4年。人類が少しずつ生活を立て直してきたときだが、ある時、100の家の名前が書かれた表と、魔道具が発見された」
イルク先輩は教科書のお目当てのページを見つけて、俺に見せてきた。
魔道具のイラストがある。
「これは…手を当てて使うんですか?」
「正解だ」
以前市役所で魔法測定をした際に見たあの魔道具と、なんとなく雰囲気が似ている気がした。
ここまで来ると道具というか機械という感じもする。
「同時に発掘された資料曰く、百名家は魔法に適応しやすい血族らしい。どういうことかというと、赤魔法使いや魔族が生まれやすい、ということだ。これは歴史を遡っても赤魔法使いや魔族のほとんどが百名家から生まれていることからもわかる。で、そんな集団だから大陸内の国々のお偉方にも顔が利く」
「あくまで生まれやすいだけ。私みたいに青魔法使いの普通の人もいる」
マーリィ先輩が補足した。
「それで、百名家の血筋かどうかを判定してくれるのがこの魔道具らしい」
「そう。毎回、会合のときに判定される」
「その会合ってのは何なんですか?」
「百名家会合は、百名家の人が集まって、遺跡から発掘された魔法陣を発表したり大陸の国にどう働きかけるかを考えたりするところ。私は魔法陣しか興味ないからそれの資料だけもらって帰ってる」
「魔法陣が公に出回るまでには1ヶ月はかかるからな。その点
「…そうでもない。家がすごいだけ」
マーリィ先輩は、どこかもじもじとして赤くなっているように見えた。
でも、本当に少しだけだ。もしかしたら見間違いかもしれないというレベル。
「その会合ってのは、百名家の人が皆集まるんですか?」
「ううん。会合は別に参加しなくてもいい。家の代表者だけ寄越してるところもあるし、そもそも参加しないところもある」
「アルティスト家はお母様が代表者として参加していますわ」
シルヴィが口を挟んだ。
マーリィ先輩も頷いている。会合に参加したシルヴィの母を見たことがあるのだろう。
「それだと、会合にはどれくらい人が集まるんですか?100人くらいですか?」
「そんなに来ない。多くても40人くらいしか集まらない」
「それは少なくないですか?いくらなんでも」
「そこなんだよ、ヒロキ君。実は現在百名家に属している家は100もないらしい」
「えっ!?」
さっき言ってた表には100家の名前が書かれているんじゃなかったのか。
その疑問を口にする前に、マーリィ先輩が口を開いた。
「最初からその家が見つからなかったり、断絶したりして…多分、家の数は全部で60もないと思う。皆が皆素性を明かしてるわけじゃないから、正確な数はわからない」
「え、そんなわからない状態で大事な会合って…あ、魔道具があるから、それで判定できるんですね」
「そういうこと」
魔道具にハッキングを仕掛けたらその百名家の会合とやらに参加できないだろうか?と、一瞬邪な考えが浮かんだが、そんな機械を扱える技量は俺にはないので諦めた。
そこまで複雑な魔法陣や魔導回路についてはあんまり考えたことがない。
「しかし、素性を明かさない理由ってあるんですかね」
「これは推測だけど…暗黙の了解が、百名家にはある。多分、そのせいだと思う」
「暗黙の了解?」
マーリィ先輩は重大そうに頷いた。
「落ちぶれた家は、発言権を失う」
◆ ◆ ◆
【お知らせ】
作中に登場する言語『大陸共通語』の文法書(作成中)を近況ノートに公開しました。
https://kakuyomu.jp/users/QmanEnobikto/news/16816452218456673368
また、Web辞書公開サービス『ZpDIC Online』に『大陸共通語辞書』を公開しました。
http://zpdic.ziphil.com/dictionary/237
『大陸共通語』は世界観を補強する一要素ではありますが、多少こだわってみたのでぜひご覧ください!
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