59. 五大家

「もっと詳しく言うと、借金を抱えたり、生活保護を受けることになった家や人だとバレると、発言が無視される」

「なんだそれ…」


 小学生のイジメか?

 そう思ったものの、百名家のメンバーがここにいる以上、それを発しはしなかった。

 だが、表情には少し出ていたらしく、マーリィ先輩が慌てたように手を振った。


「別に、その人と話せないわけじゃない。話だけならする人もいる。でも…会議を取りまとめてる五大家シェグラシュには意見を採用されることはない」

「昔、お父様から聞いたことがありますわ。子供心に嫌な仕組みだと思いましたの」


 シェグラシュ。定冠詞Xeに、数字の5glax。英語に言い換えると『ザ・ファイブ』ぐらいの安直なネーミングだった。


「百名家の表も五大家によって管理されていて、今は表に出ることはない。だから、もし自分が百名家でも知る術はない」

「そうだったんですの?まったく、呆れたものですわ…200年前の戦争の際にできた仕組みと聞いていますが、廃止するには五大家の権力が邪魔らしいですの。我がアルティスト家は百名家であることを表明していますから、あまり楯突くと五大家に目をつけられますの」


 アルティスト家はアルスレー地方の領主だと聞いていたが…それを黙らせる五大家とは、一体どういう集団なのだろうか。

 気にはなるが、考えたところでどうしようもないことだけはわかった。


「…とまぁ、百名家についての説明はこんなもんかな?」


 イルク先輩が説明に区切りをつけた。


「はい、歴史についてもまぁ…経緯は理解はできました」

「ん?終わりでいいのか?200年前の戦争の話は?」

「それはまあ…今度にしてもらってもいいですか。一気に聞いても忘れちゃいそうで…それに、そろそろ作業に集中したいので」

「いいだろう、わかった。また聞きたくなったら遠慮なく言ってくれ」


 イルク先輩はパタンと音を立てて教科書を閉じ、机の上に戻した。


「待たせて悪かったな」

「別にどうってことないって」


 エルジュから木の板を受け取る。

 事前に引いておいた線のうち、自己保持術式のところが丁寧に掘られていた。

 さすがは魔道具の開発者だ。俺にはここまではできないだろう。

 俺はペン先にインクをつけて、線を足していく。


「そういえば、これは何を作っていたんだ?」


 イルク先輩はこちらを向いて俺に問うてきた。


「そういやオレも聞いてなかったぞ」


 エルジュもそこに加わる。


「ちょっと、この夏を快適に過ごす魔道具を作ろうと思ってな。なんだか分かるか?」

「うーん…」


 イルク先輩とエルジュが魔法陣の下書きを覗き込む。

 そこにシルヴィとリーサが加わった。

 出遅れたマーリィ先輩は、身体の隙間に無理やり顔を突っ込んでいる。


「ふむ、この中央は温度変化の魔法陣だな」

「外側…歪んでるけど、風を起こす魔法陣だと思う」

「自己保持術式の魔素の流れは…こっちだっけ?」

「逆ですわ、エルジュ。こっちから、こう流れますの」

「ってことは…この温度変化の魔法陣は、冷やす魔法陣かな」


 各々が口々に推理していく。


「なるほど。冷たい風を起こす魔法陣か」


 イルク先輩が言った。

 どうやら、正解にたどり着いたようだ。

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