60. 魔法と生活
「その通りです。これがあれば夏も快適に過ごせるのではないかと思いまして」
俺が作っているのは、簡易的なエアコンだ。
温度を調節する機能などはないが、寒くなったら魔素を抜けばいいだろう。
「魔法の理論を理解していれば、こういうことにも使えるのね…」
「どうしても、魔法といえば戦闘というイメージは結構強いからな。世で売られている魔道具もみんな戦闘用だし、実際強いし。でも別に魔法が戦いにしか使えないわけじゃない。街灯とかもたしか魔法で光ってるだろ」
「そういえば、そうなんだっけか」
街灯はたしか魔灯なんて呼ばれていたはずだ。
「エルジュ、掘るの任せていいか?」
「おう、任された!涼しさは一刻も早く欲しいからな」
目に見えて上機嫌になったエルジュが、鼻歌を歌いながら彫刻刀を手にして溝を掘っていく。
シルヴィに「もっと丁寧に!」なんて叱られていた。
…あいつら、楽しそうだな。
「さーて、俺もこっちの魔法陣に取り掛かりますか…」
客車から取り外され、壁に立てかけられている底板に刻まれた魔法陣を眺める。
合成の仕方が雑と言ってしまえばそれまでだが、よくできている。
元の魔法陣は前文明できちんと作られたもののようだし、大規模に手を加える必要はないだろう。
「先輩、紙ありますか?」
「紙…紙…ありゃ」
イルク先輩は机に設けられた引き出しをいくつか開けて頭を掻いた。
「切らしているな。悪いが、どっかで適当にもらってきてくれ」
「紙ってそんな簡単にもらえるものなんですか?」
この世界で紙というと、羊皮紙か和紙みたいなやつだ。
羊皮紙はどうもお高い感じがあって書き捨てるには抵抗があったので、大量に生産されているらしい和紙のような紙を基本的に使っている。
無論それでもタダではないが…
「ヒロキ…これ、使ってもいい」
資料整理をしていたマーリィ先輩が差し出したのは、魔法陣や文章が書かれた紙。
「…さすがに、資料に落書きするのはちょっと…」
「どうせ、あんまり役に立たなさそうだし…」
「別にそんなことないですって。わたし行ってきますよ、貧乏優等生だから紙とかはもらえるんです」
「ついでだし俺も行ってきます、紙ないと魔法陣設計できないんで」
俺は立ち上がった。
半分くらいはこの暑さと日差しの中リーサを一人で行かせるのが申し訳ないという気持ちも含まれている。
まあ気持ちだけで、何ができるというわけでもないのだが。
「エルジュ、それ終わったらシルヴィに赤魔法入れてもらっといてくれ」
「うーっす」
ガリガリと削りつつ、エルジュは生返事を返した。
それを確認して、俺はドアを開けた。
「んじゃ、行くか」
「うん」
俺たちは再び日差しの中へと戻っていった。
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