第101話 戦の真相

 僕の呆けた声を聞いた父上は、小さく苦笑してから続きを口にした。


「お前が奴らを叩き潰したあの戦いの後、内密に戦を終わらせたいと向こうから話があった」

「……」


 父上の言葉に、思わず眉根を寄せてしまった。あれだけ攻め上げて来ていたのに、たった一度の敗北で終戦交渉?

 大敗させた僕が言うのも何だが、あの程度で戦を止める理由にはならないだろう。あれはあくまでも初戦。本格的な戦の前の前哨戦にしか過ぎない。

 そんな初戦にですらあれだけ多数の兵を投入していたのだ、本国には本戦に向けてかなりの兵が控えていた筈。これからが本番とばかりに攻め込むのが当然の流れだろう。


 僕の訝しげな表情を見て、父上が笑う。


「まぁそう思うだろう。元々あの国は、五年前に滅ぼしたドゥール王国とは同盟国だったのは知っているな?」

「はい」

「奴らは負けた後、国の貴族の一部が自由都市国家へ逃れ、生き残った王族と逃がす為に尽力した貴族はナーヅ王国へ亡命していたのよ」

「はい」


 そこまではジャルナールから聞いているので知っている。


「で、ナーヅ王国としてはだ。此度の戦はドゥール王国との同盟の契りを果たす為だったと。先の戦いでその義理は果たした、亡命している王族貴族全て渡すので戦を止めましょうとな」

「はぁ……」


 契りとは即ち、同盟締結の約定と、間違い無く立てた金の神への誓いの二つだろう。

 同盟締結の約定は、例え一方の国が滅ぼうとも王族が亡命してお国再建と言う手段が残っている以上は生きている。

 例え約定の証明である誓約書や宣誓書が失われようとも、一度紡がれた縁を一方から断ち切るような真似はその後の国政や対外的な面で不味くなる。

 そしてそれ以上に大事なのが金の神への誓い。これを破れば金の神の怒りを買う可能性が非常に高い上に、神への誓いを破る国や王族はその後決して信用されない。

 だからこそ、同盟国としての約定や義理、そして神への誓いを守る為に一度は自発的に戦を仕掛けたと言うことだろうか。


 昔王城で習ったことによれば、国家間同盟の際に金の神へ誓うことは大体決まりがあると言う。言い回しは色々あれど、要約すると「お互いに困った時は助け合おう」と言うものだ。

 ナーヅ王国は嘗てアーレイ王国とドゥール王国が戦をしている際には派兵、後方支援含めて同盟国としての義務を果たしていたのは王太子屋敷でジャルナールから聞いている。

 そして今回、お国再建の為の宣戦布告から始まる戦でその誓いを果たしたと言うことか。結構誓いの反故すれすれな気はするんだけどな。


 しかし、そんな理屈が今回の終戦交渉に於いて通用する訳が無い。

 いざこざが前もってあったとは言え、宣戦布告された上に領土を攻められたのはこちらだ。契りを果たす為どうのこうのは所詮ナーヅ王国側の都合。アーレイ王国が関知するところではない。逆に喧嘩売ってるのかと思わされる申し出だ。


 そんな僕の心境を察したのだろう、父上が楽しそうに笑みを浮かべた。


「お前も気づいたな。無論そんなことでこちらが納得する訳が無い。で、だ。終戦交渉の条件として向こうが差し出してきたのは食料物資に魔道具、更に賠償金と大量の奴隷だ」

「奴隷?」

「多くの市民と農民が減ったこと、作物の影響に対しての補填だな。結構居たぞ。最初に提案してきた数は凡そ五十万だ」

「はっ?」


 僕は再び間抜けな声を上げてしまった。

 幾ら賠償とは言え、あっさり差し出せる五十万の奴隷なんて居る訳が無い。荘民の数自体はそれくらい居ても何らおかしくは無いが、それだけ一気に差し出してしまえば生産力が激減する。


 父上の今の言い方からして、差し出されるのは荘民ではない。荘民であればもっと少ない数からの提案になる筈だ。しかしそんな数の奴隷なんて用意出来る訳が無い。


 ならば、残った選択肢は限られる。


「これは調べたことだ。あの国には大量の難民が居た。ドゥール王国が滅びた際、王族達に倣って逃げ出したな。それの一部を差し出しだそうと言うのよ。あくまでも建前上は奴隷としてな」

「なるほど」


 それなら五十万と言う数も頷ける。国が滅びた際に国の何割の民が逃げたかにもよるけれど、五十万でも少ない方だろう。そう言った事情から生まれた難民であればもっと大量に居る筈だ。


 そこで、ふと気付く。


 もしかしてあの戦、ナーヅ王国側の投入兵が多かったのは大半が強制的に徴兵された難民だった? あるいは市民を有償で召集する市民兵のような、報酬制で雇った難民兵だった? だからこそ多方面から同時に侵攻出来たし、僕との決戦に於いてもあれだけ兵数に差があったのに、兵の質で負けた?


 片や士気と殺気に満ち溢れた領主に騎士、本物の兵や傭兵率いるアーレイ王国。

 片や士気も能力値も低い難民と僅かな貴族や騎士、少数の兵を率いるナーヅ王国。


 どうしよう、これは凄く納得が行く。歩兵が異様な程に弱かったことも、クロスボウが矢鱈と使われていた理由もだ。あれは訓練していない者でも比較的手軽に扱えるのに高い殺傷能力を持つ。例え難民の集まりだろうと十分な兵と化す。

 同時に最悪な考えが頭をよぎる。


 そして、父上がその最悪を答えとする。


「あの国には大量の難民を抱える食料は無い。良くぞ五年も持ったものよ。我が国でも抱えるのが面倒な数だ。つまり先の戦は、兵に難民を使い戦場で我らに処分させ、敗北することで国に寄生する王族や貴族を引渡し、更に賠償として大量の難民の一部を押し付ける為に行われたのよ」

「そんなのって……」


 弟がぽつり呟いた。僕も言葉を失った。

 いや、上手いとは思う。博打な部分も多分にあるけれど、筋だった策略だ。


 しかもこれ、父上は口にしていないだけで続きがある。どうしてそれ程までの難民をこれまで養ってやっていたのか。普通なら国外に追い出すか処分する筈。多少は生産力として扱っているかも知れないが全ては無理だろう。占領した地の民ならともあれ、どんな理由があろうとも他国から流れてきた民と言うものはそう簡単に受け入れられるものではないのだ。


 では何故難民を素直に養っていたのか。それは元々が同盟国の民だからだ。同盟国の民だからこそ、蔑ろに扱うことが出来なかったのだろう。同盟国の王族は自分達が匿っている状況だからこそ、尚更に。

 と言うことは、だ。その同盟関係が終わった以上、この先ナーヅ王国に存在する難民の殆どは処分されていく筈だ。


 つまり、ナーヅ王国は自分達の目的を達する為、数十万の力無き者達の命を踏み躙る覚悟を以てあの戦に望んだと言う訳だ。

 敗北を前提とした戦いに関してもそうだ。言うは易いが行うには相当の覚悟が要る。なにせ、宣戦布告して戦を始めたにも関わらず、敗北のままに終戦を迎えた無様な王と言う汚名を被ることが前提にあるのだから。


 本来国が国に要望を通したければ、力を見せつけるのが常道だ。

 しかし、もしあの戦でナーヅ王国がアーレイ王国に勝利していた場合、確実に父上が先頭に立って出兵していた。そして派兵する兵数は十数万、下手をすれば数十万を超えていただろう。国王自らが立つ本気の戦の際には生産力の低下は前提となるので、そこに躊躇いは無い。生産力と領土を守る為に戦った初戦とは全く意味が違う。

 自国の生産力を犠牲にして、敵国の生産力を奪う。これが本当の戦だ。


 そしてアーレイ王国は戦の機会があれば躊躇い無く隣国を喰らい尽くしてきた実力主義国家。強き者が正義。それが初代アーレイ王から連綿と続くアーレイ王国の在り方であり、それは周辺国家には嫌と言う程に伝わっている。

 とある国王の治世では、アーレイ王国は周辺国家から『血の川が流れる国』とまで呼ばれていたらしい。ちなみにそう呼んだ国々は血の川を流した後、アーレイ王国の領土へと姿を変えていった。


 そんな国が敗北して終わりだなんてありえない。ナーヅ王国がもし一度でも本格的に勝利してしまえば停戦交渉や終戦交渉の機会なんて消え失せる。どちらかが滅ぶまで続く大戦争の始まりだ――まぁそもそもアーレイ王国と戦が始まった時点で殲滅戦争の開始なんだけど――。


 弟に勝ってしまったあの初戦、向こう側としては想定外だったのかも知れないな。多分引き分けか惜敗程度にするつもりだったのが、こちら側の事情により大勝してしまったのだから。父上ではなく僕が来た時はさぞかし安堵したことだろう。


 あの戦では各戦闘域でこちら側も相当な兵が死んでいる。勝利もあれば敗北もあった。

 例えばお祖父様が援軍に向かう原因となったジェイナル伯爵軍がそうだ。幾つもの村や町も滅ぼされたし、都市も占領されてもいた。

 だが、あれはアーレイ王国にとっての敗北にはならない。と言うよりも、戦に於ける勝敗を決定づけるのは基本的に本陣、本軍が負けるかどうかなのだ。

 例えば一戦闘域の軍が負けようとも、本陣が残っていれば他の戦闘域への指示が出せる。だが本陣が負けてしまえば他の戦闘域の軍が幾ら残っていようと、指揮系統が無くなり撤退するしかなくなる。


 これは本陣を国王に例えれば分かりやすいだろう。各戦闘域で戦っている軍と言う配下が幾ら死のうと国王、つまり国は残るが、国王が死んでしまえば幾ら配下が生きていようと国は滅ぶ。結果、本陣が敗北すれば戦場で戦っている各領主軍は撤退するしか道は無くなるのだ。

 よって、あのナーヅ王国との戦に於けるアーレイ王国の敗北とは、本陣が壊滅することにあった。翻れば、本陣を滅ぼさない限りナーヅ王国は勝利とはならなかった。

 だからこそ、ナーヅ王国としては本陣に勝つ訳にはいかなかった。

 国を存続させる為に戦を始めたのに、それよりも遥かに酷い状況を生み出す訳にはいかない。故に敗北を前提としたのだから。


 でもここまで聞いて、あの戦いに於ける矛盾に気づかされる。

 決戦を受けたのは分かる。あれは兵の質が理由でアーレイ王国軍が勝ったと言うより、初めから向こうが負けるつもりだったのだ。最初からどこか適当な時期を見て敗走に見せかけ撤退するつもりだったのだろう。

 だがその後に疑問が残る。なにせ大将と分かっている僕が単騎吶喊しているのに、その大将に向けてクロスボウを一斉に発射したのだから。あんなものまともに受けていれば無能王太子なんて即死だった。

 それ以前に、あの単騎吶喊してきた騎士だって確実に僕を殺すつもりの一撃を繰り出してきた。僕が死ねば本陣は撤退するしか無かったと言うのに。

 この辺りは大将を勤めていたヴァルザール公爵にでも聞いてみないと分からないことなんだろうな。


 表情を変える僕と弟を見て、父上が笑う。それは父としての顔では無く、王としての顔だった。


「お前達、ナーヅ王国のやり方を非道と思うか?」

「難民を抱えるのが辛いの分かります。それを解決する為にもと。ですがこれは」


 弟の声を聞き、父上は僕を見る。

 僕はその瞳を真っ直ぐに見据え、答えた。


「私は、成功を前提とすれば、優れた策略だと思います」

「ほお」

「兄上」


 弟には悪いが、ナーヅ王国が成したことは、上位者としては間違い無く、正しい。

 僕の言葉に、父上がさぞ満足げに頬を上げた。


「そうよ、カインの言う通り。ロイよ、非道と思うは自由。但し王となるもの、受け入れよ。俺は認めるぞ、此度のこと。良いか、王が大事とするは国だ。自国を食い滅ぼそうとするものなぞ切って当たり前。外道非道などという言葉は弱者敗者の負け惜しみよ。

 お主も三代目国王が成したことは当然知っておろう。『善正邪悪』。あの御方の行いこそ『善正』の極み。此度の奴らの行いもまた紛れもない『善正』だ。ましてや此度は我が国との同盟すら結んだぞ」


 それは本当に凄いと思う。父上を納得させる何かを出せたと言うことなのだから。


「お前達は知らぬだろうがな。最近東のラディッシュ辺境伯領と接しているバーナルド王国、そして空白地帯に住む種族がきな臭いと言う。そして我らの国は西の自由都市国家群とはそう関係が良好では無い。

 南の方ではガルラ王国と更に南のシバルラ王国との間で小競り合いが始まっておるらしくてな。その二国と領土を接するギューヴァル王国もどう動くか分からんが故に、動向には注意せねばならん。そも五年前の戦に於ける損害がようやく癒えてきたのが我が国の実情。ナーヅ王国なぞに構っておる暇は無いのよ」

「なるほど……」


 五年前の戦はアーレイ王国にもそこまでの被害があったのか。意外と言えば意外だな。


 ただこれ、またもや父上は口にはしていないが、実際はザルード領に於ける大発生スタンピードも向こうの提案を受け入れた大きな要因ではないかと思う。

 ナーヅ王国とのやりとりの時期タイミングにもよるが、攻め入る準備をしていたところで大発生が発生してしまい、その為の物資や兵力を回すゆとりの一切が無くなったのではないか。でなければ戦を仕掛けてきた国を父上が、アーレイ王国の国王が許すなんて思えない。そんな生温い人はこの国の王になんてなれない。


 そして間違いなく他にも理由がある。

 大発生でゆとりが無くなったとしても、防衛に徹し、ザルード領が落ち着くのを待ち、その上で再びナーヅ王国に仕掛ければ良かったのだから。余程の強者か効果を持った魔道具でも出てこない限り、一軍程度なら父上お一人が戦場に立てば済む話なのだ。

 僕が戦ったあの決戦時の敵軍で想定すれば。僕が知る父上の戦歴を考慮すれば。父上があの場に居た場合――継戦能力を度外視すれば――数分で決着は着いていた。それ程の力があるのだ、カルロ=ジグルと言う国王は。


 戦の大義名分があるのに、滅ぼして良い国があるのに、それをわざわざ捨てるなんて父上がする訳が無い。国や種族がきな臭い? 周辺国家の動向に注意しなければならない? ならば全て滅ぼしてやろう。そんな考えを持つのがアーレイ王国の国王だ。

 だけど、それをしない。だからこそ、他に何か重大な理由があるに違いない。

 それが何かまでは流石に分からないけれど。


 父上の言葉は続く。


「それを知ってか知らんでかは分からんが、見事なものよな。このまま放っておけば寄生虫に国を食い荒らされる。それが無くとも弱ったところを我が国に攻め滅ぼされる。何とも立派な国王よ」


 その言葉に僕は反応しなかった。その資格は無いからだ。

 それに、そこまで聞いて納得出来た。そんな状況なら博打の一つも打つだろう。


 ただ、眉を強く寄せている優しい弟はどうにも受け入れられない様子だ。


「ロイ」


 私はそんな弟に優しく声をかけた。

 廃太子を望み受け入れた私が、望んでもいない立太子を受け入れざるを得なかった弟に語るも烏滸がましい。されど、悩む弟に対し、兄として伝えたかった。


「私はな。実は先日、この王都全ての連盟ギルドを滅するつもりであった」

「え?」

「おい」


 実際は一つの同盟だけではあるが、可能性はあった。ならば虚言にはならぬだろう。

 何故か父上まで反応されたが、微笑み頷いておく。


「とある連盟の下っ端が私と、共に居た連盟員ギルドメンバーに手を出そうとしてな。少し痛い目を見せてやったのだが、その者が自分の連盟や同盟パートナーズ、お抱え貴族が黙ってない、なぞと戯けたことをかしおってな。故に私は黙らせる為、手始めにその者の連盟を消すことにした」

「兄上が?」

「うむ」


 私は笑う。微笑むような感じで。


「結局それはせんかったがな。私が何を言いたいか分かるか?」

「いえ」

「私はな。この王都の連盟の者達より、己の連盟の者達を優先したのだ」

「はい」


 素直に頷く弟。


「今、お前に大切なのは、何を大事と見るかだ」

「何を」

「うむ。例えばだ。お前は父上や母上、お祖父様や私が飢えて苦しんでいる時、隣の家の者が腹を空かせて居たら食料を渡すか?」

「いえ。家族で食べます」

「うむ。つまりお前は隣人を見殺しにする訳だ」

「あ、いえその」


 反射的に家族を選んだ、心優しき弟には少々酷な問答だが続けさせて貰う。


「しかしな、それは当然だと思う。先の私がそうだった。今問いに答えたお前も、己の連盟の者を選んだ私も、傲慢なのだ」

「傲慢」

「うむ。何故なら人の命を選択しているが故な。結局な。人は自分の大事なものを優先する。他者を踏み躙ってもな。それを傲慢と言うのだ。そして、私が語るも烏滸がましいが、それは王ですら同じなのだと思う」

「はい」


 解らないなりに思考を巡らせながら頷く弟に、また微笑む。


「己の大事を選ぶことは当然であり傲慢。そして王とは最大の傲慢を持った者なのだ。何故なら王は、自国の為に他国を滅ぼすのだから。お前はそれを否定するか?」

「……いえ」

「そうだ。同じなのだよ。故に、お前は見つけねばならぬのだと兄は思う。何を大事とするか、後はその大きさの違いだ。お主は王になる男。ならば誰よりも傲慢でなければならぬ。それに苦しみを覚えるだろう。だが、自分の大事を守れることを誇りに思い喜びを得るのだ」

「……はい」


 返事をした弟の顔は、僅かばかりに晴れたものだった。

 私は父上を見る。


「王である父上の御前で無礼なこと、誠申し訳御座いません」

「構わん。お前なりの解釈であろうが、間違ったことは言っておらぬ。ロイよ。今カインが言った言葉忘れるな。国王としてだけでは無いぞ。己が守らねばならぬものを見間違うと、貴様は後悔に飲まれるぞ。そして飲まれた者は二度と立ち上がることは出来ん」

「はい、父上」


 そう言って構えられた弟の顔は、先程よりも逞しいものになっていた。

 が、そこで男三人の作り出した空気を台無しにする柔らかい声が響いてくる。


「カインちゃんも立派になって。おいで、母上が褒めてあげる」


 両手を差し出して構える母上に、僕は酷く弱い顔をした。

 母上は本当に綺麗だし細身ながらに豊満な身体付きをしているのに、幼い顔と性格を宿しているから困る。いや、これは子煩悩だろうか。


「母上、私もその、もう成人しておりまして」

「この間は一緒に寝たじゃないの」

「そうなのですが……お祖父様」


 何だか楽しそうに笑っていたお祖父様を見ると、にやりと笑みが返ってきた。


「良いではないかカイン。母の腕に甘えられるも今の内。それとも自分の女が恋しいか?」

「はい――あ、いえその」


 いけない。今本当に素で答えてしまった。「自分の女」と言う言葉で、頭にミミリラ達の顔が思い浮かんでしまった。

 動揺する僕を見て、祖父様は快活に笑った。


「サラよ、もうカインは自分の女がおる。取られたな」

「いいえ父様とうさま。まだカインちゃんは私のです」

「母上……」

「ははは。どれだけ強くなろうとも母には勝てぬかカインよ。だが立派なことを言うようになった。これからも励め」

「……はい」


 温かく見つめてくる父上に、僕は自然と笑みを浮かべた。が、すぐに父上は身体を前のめりにして真っ直ぐ僕の瞳を見据えながら口を開いた。


「ああ、後なカイン。先の連盟の話聞かせよ。流石に全ての連盟を潰されてはやっておれんからな。王都で英雄に『ケディの邪行』の再現なぞされては止める前に国が滅ぶわ」


 ああ、やっぱりそれを引きずるんですね父上。

 なんて思いながら、僕は思わず苦笑していた。こういう時間は良いものだ。

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