第121話 花よ在れ
それからも順調に探索は続いていった。
シムシスの戦い振りに何かしら感じるものがあったのか、戦闘に向かうサガラ一同の姿には鬼気迫るものすらあった。
ただ三十一階層までは出てくる最大危険度段階は4の上。元々僕と出会う前のサガラですらそこまでは倒せていたと言うのは
何度かシムシスが倒した『六足毒蜥蜴』も出てきていたが話にもなっていなかった。魔獣は何をすることも許されず瞬殺されていった。
そんな状況もあって、僕は本格的な
それに、実は二十一階層に下りてから他の
そう言った理由から、僕は三十一階層に至るまではサガラに任せることにしていた。
※
幾ら最短距離を進んでいるとは言え、歩く距離は相当のものになる。僕やサガラ、シムシス達は問題無いが、やはりローラル達
加えて、戦っているサガラ達も相手取る魔獣に余裕があるとは言え、探索を続けていればどうしても集中力が欠いてくる。
よって、僕達は二十五階層に着くとその日は終了とすることにした。無理をして怪我をしていては意味が無いのだ。
現在、皆は僕が出したテーブルに着いて並んだ料理を和やかに食べている。
普段の彼ら、彼女らは
「魔窟でこういうの食べられるって中々無いよな」
「だな。普通は冷たいか固いやつとかばっかだもんな」
「そうね。この間は何だったっけ?」
「確か
「あったな! はっは!」
「笑いごとじゃねぇよ! 本気で尻尾の毛が焦げたんだからな!」
「俺なんて髪だぞ!」
「貴方達が悪いんじゃない!」
何やら向こうでは仲良さげにサガラ衆がやんやと騒いでいる。決してそれが許される場所では無いのだが、まぁこれが『
しかし、思わず食べてるものを吹き出してしまう程の冗談とは一体どう言うものだったのか少し気になるな。後で聞いてみようかな。
「何て言うか……流石英雄が
「実に素晴らしい」
何やらローラルは呆れ、シムシスは嬉しそうに顔を煌めかしている。僕は膝の上に乗っているミミリラの滑らかな尻尾を触りながらそれを耳にしていた。
先程の面々だけではなく他のサガラ達を見れば、何とも楽しそうに歓談をしている。そう言えばサガラの面々とは最近あまりこういう時間を取れていなかった。自分に尽くしてくれている者達に何もしてやれていないのはあまり良くはないな。
「違う。もう貰い過ぎて返せないくらい」
「そうですよジャスパーさん。もう七代先でも返せません」
「そうなのねーん。最近どうやったらもっと癒しになれるかばかりなのん」
「ですね」
「右に同じ、です」
「皆同じ気持ちですねぇ。断言しますよぉー」
「ですです」
「なら良いけどな」
そう言うと、パムレルが後ろから身体を寄せてくる。段々とそこがパムレルの定位置になりつつあるな。
「そう言えばジャス。明日からはどんな感じで進めていくんだ?」
近くのテーブルに着いていたニールの質問に、少し考える素振りを見せてから答える。
「最高で確認されているのは非公式で四十二階層だったよな?」
「ああ。本人達の申告ではな。命からがら帰って来たって話だ。少なくとも四十一階層は行ってるだろ」
仮に三十一階層から四十階層の間で戻るのだとしたら、命からがらと言うのはおかしい。現状で確認されている、魔獣の強さが変わるのはそれぞれ十一、二十一、三十一階層から。ならば、次に変わるのは四十一階層と考えるのが自然だ。
まさか三十一階層や三十二階層で命からがらと言うことは無いだろう。その冒険者達は評判こそ悪かったものの、実力等級値だけは高かったらしい。
三十一階層から姿を見せる魔獣の最高危険度段階は5の中。決して倒せない相手ではない。そういう意味で四十一階層には行っているだろうと言うことだ。
「取り敢えず三十一階層までは訓練がてら今日と同様にサガラだけ。三十一階層からは、他に冒険者が居るか次第でもあるが、本格的な経験値稼ぎを始めようと思ってる。
後は四十一階層の魔獣が居なくなったら四十二階層に、って感じだな。そこからは時間と状況次第。場合によっては大幅な延長をしても良いが、その時は男一同、娼婦と酒が遠ざかるな」
何てこった! と言いながらサガラの男衆が崩れ落ちた。それを何とも冷めた目で見るサガラの女衆一同。多分分かってそういう目をしているんだと思う。
そう言えば、と僕は
ずっとサガラ
「あ、私達は大丈夫です」
「はい、問題ないです」
「そうですねー」
「そうなのです」
「どうしてだ?」
パムレル、チャチャル、メルル、ポポルがそれぞれ微笑みながら答えてくる。その言葉に僕が首をかしげると、ミミリラが思念で答えてくれた。
《彼女達の
《ん?》
ミミリラの言葉のままに四人の個体情報を見てみると、思わず何でだよと口にしそうになった。僕と集合体を組んでから今日まで戦闘どころか録に訓練すらしていないにも関わらず、魂位も能力等級値もニール達より遥かに高い。
本気でどうしてだろう。彼女達の個体情報は集合体に参加した時に見ているが、その時はここまでのものでは無かった。
そんな疑問に答えたのは、やはりミミリラだった。
「私達は他の女よりジャスパーと一緒に寝ているからだと思う」
《加えて、私達はカイン様と魂が繋がっております故》
心の声で補足するミミリラの個体情報を見れば、あの日“即効性のある交感”をした時よりもまた大きく
またニャムリとピピリを確認すれば、やはりこの二人も――ミミリラ程では無いが――著しい成長を遂げている。
「あの日も急激に上昇したけど、それからは今まで以上に上がるようになった」
「……ふむ」
その言葉に、色々と考えを巡らせる。
疑問と仮説が浮かび上がっては沈み、落ち着いたところで僕はミミリラに問いかけた。
「なぁミミリラ。実際さ、どんな感じで魂位が上がるんだ? 交感で、って言うのはまぁ分かるが、それよりずっと前からお前達そういった傾向あっただろ」
「交感とは違った意味で、お腹の底から自分の中に何かが入ってくる感じ。魂が完全に繋がった今なら分かる。あれはジャスパーの魔力」
「俺の魔力……」
ミミリラは今「お腹の底から」と言ったが、それはこの場だから濁しただけだ。心の声では、女性が子を宿す部分からだと伝えてきている。
それを言われて考えること暫くして、一つの可能性に行き当たる。
僕が創造した避妊魔術である【
生物を倒した際に得られる経験値とは“生物と言う魔力”が世界へ還元する前に、『
そして胤と言うものは本人の魔力そのものでもある。そのことを鑑みれば、胤とは僕から生み出された経験地と解釈することも出来る。
仮に僕の胤が経験値の塊だとする。けれど、それは決してそのままに吸収することは出来ない。胤が僕の魔力そのものであるのなら、受け取る側――この場合はミミリラの魂が自動的にはじいてしまう。魂と言うものは、自分以外の魔力が直接自分を染めることを否定するように出来ているのだから。
生物を殺した後に得られる経験値は金の神の力が関係する『縁と絆』あってこそ、可能となっている筈なのだから。
交感によって相手の魔力を吸収していると言うあれだって、本来は極限まで自分達の魔力を触れ合わせ交わらせることによって微量に得られるのが限界だ。それも、余程に相手との「絆」が強くなければ成し得ない。
だが今のミミリラの言葉から読み取るに、【避妊】であれば僕の魔力をそのままの形で吸収出来ると言っていることになる。
もしそれが正しいのだとすれば、これまで疑問に思っていたことの殆どが解消される。
魂が繋がる以前から彼女達は異常な
そこに交感の効果も相まって凄まじい成長を見せていた、と。本来能力等級値の方が上昇する筈なのに魂位の方がより上昇していたのは、そもそも交感による恩恵なんて関係なかったからだ。
そこでふと、以前から不思議に思っていた疑問が浮上してくる。
「娼婦連中が全員綺麗になったり若くなってるのって、それが原因か?」
「多分、そうだと思う」
娼婦達、僕と寝床を共にすればする程に、明らかな美しさを手にしているのだ。
それは店主三代に顕著に見られる。彼女達は元々年齢に見合わない美しさと若々しさを手にしていたが、自らを二十歳と言っていたアンネは十代の中頃と言って誰も疑わない程になっている。先代店主であるアンナに先々代店主であるアンシーだって同様のことが言える。
以前アンネ達娼婦一同に僕の
深く読み取れば、僕の魔力を用いて自分の魂そのものを違う色に染め直しているとも解釈出来る訳だ。僕の魔力で、僕の為に魂の方向性を決めていると。
ミミリラの体型が急激に変化していったのも、この辺りが関係しているのかも知れない。彼女は僕の魔力で以て、僕を喜ばせるに相応しい身体へと自分を作り変えたのだ。
「ふむ」
下世話なことばかりを言っているがこれ、結構重要じゃないか?
つまるところ【避妊】と言う魔術は他者の魔力を、他者の色のままに吸収する魔術と言える訳なのだから。しかもそれを使って色々と自分の魂を、自分自身を変化、進化させることが可能となっている。
流石に【避妊】を用いて肌を交わらせた全員が全員、その恩恵を完全に得られる訳では無いだろう。ミミリラ達もそうだが、アンネ達娼婦に効果が見られ始めたのは僕の妾になってから。つまり『縁と絆』も強く関係していると考えられる。
アンネ達がジブリー領で一度寝床を共にした後に身体の調子が良くなったと言っていたあれは、肌を交わらせることで一時的に「絆」が強くなっていたからだろうか。
本来の恩恵こそ得られなかったものの、僕の強い魔力を僅かでも吸収出来たことで魂位を上昇させていたからとか。互いに悪感情を抱いていなかったことにも理由がありそうだ。
まだ検証も出来ていない仮説でしかないけれど、これは外に漏らしてはいけない知識な気がする。
僕はこの話を聞いていた全員に視線を巡らせ口を開いた。
「今の話はここだけのことだけにしておいてくれ」
僕の言葉に、その場の皆が頷いた。
※
食事も歓談の時間も終わり、全員に大量の敷布と掛布を渡して眠りにつく。何かが近付けば【万視の瞳】が反応するので大丈夫とは伝えたのだが、そこはやはりサガラ。何人かが交代で見張りをするらしい。
彼ら、彼女らが納得するならそれでいいと、僕は掛布と言う名のミミリラ達に包まれて床に着いていた。
その状態のままミミリラ達の柔らかさと甘い匂いを堪能していると、ひっそりとローラルが近づいて来るのを感知した。
「何だ?」
「起きてたのね」
「気付いていただろうに」
ローラルだってそれが分かっていたからこそ近付いて来た筈だ。
僕の言葉に、そうね、と苦笑してからローラルは話しかけてきた。
「さっき聞いてた話って、本当なの?」
「行為のことか?」
「そう」
「女達の話だとそうらしいな」
「そう……」
思案に表情を染めるローラルに片眉を上げる。何となく彼女が考えていることが理解出来たから。
「魂位や能力値を上げる為になんて抱かないぞ」
「あ、それはもちろんよ。そんな失礼なことは言わない」
「ならいいさ」
沈黙。その隙を狙ってか、僕の上で寝ているミミリラが身体をずらして首筋を舐めてきた。ここでは流石に致すことが出来ないので、そういった行為は少し困る。そう考えているのに止めないのは、僕が嫌と思っていないからだろう。
「ちなみにそれを抜きで抱いて欲しいって言ったら駄目かしら」
「今の話の流れでいいよって言える男が居たら見てみたいんだがな」
いやまぁ、ローラル程の見目が良い女なら大抵の男が喜んで飛びつきそうではある。が、少なくとも僕はその大抵の中に入っていない。普段から極上の女達に囲まれているのだ。如何にローラルがアンネに匹敵する程の美顔や身体を持っていようとも、殊更に手を出したくなる理由にはならない。
そんな思いに反応したのか、僕の足の方で寝転んでいたパムレル達が動き出した。掛布を被って周囲から見えないようにしているので構いはしないが、程々にして欲しい。
と言うか思うんだが。
「お前って何と言うか、話の流れが凄く
「えっと、どう言う意味?」
「連盟に入れてっていう時も仕方ないとは言え騙す方から入って信じてくれ。今回だって魂位云々の話を聞いた後で抱いてくれって、逆に狙ってるのかと思うぞ」
「それは正直自分でも思うわ……」
演技で無いなら、本人自身も結構気にしているようだ。悪気云々では無く天然なのだろうか。もしそうなら今後の使い方に気を付けた方が良いかも知れないな。
僕は小さく息を吐いてから、少し呆れ気味に口を開いた。
「せめて俺がしたいって思う何かがあればな」
「私達の顔とか身体はお気に召さない?」
「召す召さないって言うかお前、今正に俺に纏わり付いてる女達を見て自分の方が優れてるって言えるか?」
例えばミミリラ。出会った当初から美しい少女ではあったけれど、僕と肌を交わらせるようになり、また魂が繋がってからの見目の良さと言ったら貴族令嬢が裸足で逃げ出す程だ。
もしこいつに匹敵すると言えば贔屓なしに母上か元婚約者であるドミニカくらいだと思う。あの二人は別格だ。元々母上、ザルードに暮らしている時もかなりの縁談が来ていたのを全てお祖父様が壁となって断っていたらしいし。
そんなことを言った僕に、ローラルは心底困った顔をした。
「女ばかりの種族だけどね。勝てない勝負はしないの」
「だろうな」
僕としては特に深い意味も無く、素直な気持ちを吐露したつもりだったのだが、心を読めるジャスパー集合体の七人はそうでは無かったらしい。七人共が歓喜の感情と共に身体に纏わり付き始めている。
まぁそれはさておいて。折角の機会と実はローラルに聞いてみたかったことを問いかけてみた。
「なぁ、聞いていいか?」
「なに?」
「花人種がよく観賞用や愛玩用として奴隷になってるのは知ってるよな?」
「ええ……」
ローラルが沈痛な顔をする。彼女としてはあまり耳にしたくない話題だろう。その表情に触れること無く、僕は疑問を口にした。
「遥か昔、花人種は全種族で最も強かったってあれ本当か?」
基本的に戦闘には向かず、現在では最弱種族として名を広げている花人種だが、遥か昔、最強種と呼ばれたことがあったらしい。これは屋敷の書庫で得た知識だ。
僕が目にしたその書物は生物学を専門とする魔導士が記した随筆のようなものだった。
魔導士がある日、一人の旅人から話を聞いた。それはとある大陸では花人種は最強の種族として恐れられていると言うものだった。
魔導士は是が非でもその真相を確かめたくもあったが、なにせその大陸の場所が遥か遠くにあることから諦めざるを得なかったと、文面に哀愁を漂わせながらに記していた。
当時の僕としては中々に面白い話ではあると思ったものだが、少なくともここ「ガンディール大陸」では花人種は最弱種族として認識されている。聞いた相手は旅人だったと言うし、話半分と言うことだってあるだろうなと思っていた。
そんな経緯から興味本位で問いかけてみたのだが、ローラルは唐突の問いに困惑することもなく、少し考えた後に返答してきた。
「それは、『花の女王』イレ様のことを言ってるの? それとも『花の姫君』アイレ様のこと?」
まさか返ってくるとは思ってなかった答えに、思わずローラルの顔を注視してしまった。しかも今の
僕は若干の戸惑いのままに言葉を返した。
「いや、よくは知らないが……『花の女王』イレとは?」
「『闘神』アレの正妻様で、花人種が最強と呼ばれる由縁となったお方ね。『闘神』アレを除いた誰よりも強かったと伝えられているわ」
その内容に、更なる驚きが襲ってきた。
まさかここで『闘神』アレの名前が出てくるだなんて。
『闘神』アレ。嘗て存在したとされる世界最強の男。
確かに彼には幾人かの妻が居たとは伝えられているが、まさかその相手が花人種を最強の種族と言わしめる理由となった存在だなんて。
嘗て、この世界には聖人や勇者、魔王と言う莫大な力を持った者達が存在していたと記録には残されている。
それはこの世界が誕生して最初に生み出された「初まりの大地」の話だ。『闘神』アレも、魔導士が記した最強の花人種の話の舞台も、「初まりの大地」から来ている。
この「初まりの大地」で聖人や勇者、魔王は偉大な存在として君臨していた。英雄と呼ばれる者達が子供に思える程の力を持った偉大な存在もしかし、最強の花人種の前では生まれたばかりの赤子も同然だったらしいと魔導士は記していた。
驚きばかりに言葉を失う僕に、ローラルは不思議そうにしながら言葉を続けた。
「ただあれは花人種が強かったと言うよりも、イレ様が特別だったと伝えられているわよ」
「そうなのか?」
「私も流石に詳細には知らないけれど、『闘神』アレの寵愛を受ける為にだったとか」
「……」
僕はそれに対して、今度は違う意味で言葉を失った。
当時最強と呼ばれた男の寵愛を受ける為に最強の種族に至った女とか、凄絶な程の執念を感じさせる。だが逆に言えば、どんな種族でも最強になれるという証明でもあるのか。
僕は先程から幸せそうに身体をすり合わせてくるミミリラを見た。すると、思わず見惚れそうな愛らしい笑みが返ってきた。
その顔を見ていると、何だかそれも不可能では無いのかな、と思えてくるから不思議なものだ。
僕は視線をローラルに戻して話を続けた。
「ちなみに『花の姫君』アイレとは?」
「お二方の間に生まれた
過去から現在までアイレ様は『花の神』や『花の守護者』とも呼ばれていて、花人種が祈りを捧げる神と言えばこのお方になるわ。もちろん『七つ神』に対して畏敬の念はあるけれど、花人種が最初に祈りを捧げるのはアイレ様ね」
いやもう、何と感想を述べたらいいのやら。『闘神』アレ以外の誰も勝てない最強種族に至った女から神に至る娘が生まれたとか現在の花人種に対する常識からすれば考えられない話だ。
もしかしたらアレの『闘神』と言う二つ名は、後年に付けられた尊号なのかも知れないな。『花の神』の父であり、凄まじく強かったから『闘神』とか。
色々と深く掘り下げてみたい内容ではあるが、もう時間も遅い。あまり長く起きていては彼女達の明日に差し障りがあるだろう。
若干の心残りを覚えながら、僕はこの話題をここで終わらせることにした。
「まぁありがとう。また何か面白い話があったら聞かせてくれ」
「ええ、いいわよ。どうやったら抱いて貰えるかも考えておくわ」
「諦めろよ」
「私だってね、主人に対する敬愛はあるのよ」
そう言葉にしたローラルは、まるで花咲くような笑みを残して自分の寝る位置へと戻っていった。
「……」
皆が寝静まり、不寝番をしている者達以外が寝息を立てている中、僕は眠れずにいた。先程ローラルから聞いたばかりの話が頭の中をぐるぐると駆け巡っていたから。
アレとイレ。名前を組み合わせてアレイ。音を伸ばしてアーレイ。
遥か過去、「初まりの大地」に存在した世界最強の『闘神』アレ。数百年前に他大陸からアーレイの家名を持って「ガンディール大陸」にやってきた大陸最強の初代アーレイ王、アルマール。
『闘神』アレと『花の女王』イレの間には花人種の娘が居た。二人の魂の欠片を持つ子孫が居た。初代アーレイ王は己の血を引き、花色の瞳を持つ初代カルミリア公爵家当主に花の冠を自らの手で授けた。
初代アーレイ王の魂の欠片を引き継ぐ、王族の直系足る僕に宿る、花の名を持つ血族技能【大樹の宿り花】。
『花の女王』イレは『闘神』アレの寵愛を受ける為に最強に至った。つまり、それ程までに愛していた。傍に居たかった。一時も離れたく無かった。
魂と魂を結合させる血族技能【大樹の宿り花】。ミミリラが可能とする【
宿り花とは、宿り木が花となったもの。宿り木は宿った木が枯れた瞬間に死んでしまう。つまり、宿った花もまた枯れてしまう。生死の全てを共にする運命共同体。
もし、アレと言う大樹に宿った花がイレだとしたら。
私は貴方だけの者と言う想いと共に捧げられた技能が【
“――”
――そこまで至り、僕は考えるのを止めた。
色々と面白い想像だが、もしそうならアーレイ王国の王族とは、最強の男と最強の女との子孫になる訳だから。流石にこれはご都合主義に満ちた創作の話にしかならないだろう。
だがもしこれが真実なら、僕は二人の最強の魂の欠片を引き継いだ人になる訳だ。何だか胸が躍るな。
僕はまるで自分が花人種になったかのような気持ちで、その言葉を吐き出した。
「『
何となく思いついたその言葉は、
何だか
「――」
意識が落ちる寸前、誰かの声が、聞こえた気がした。
“余計な話をしてくれるねこの花人種。鍵が解けたらどうしてくれるのさ”
――んふふー、七色の
“うるさいな。お前は黙ってなよ”
――別にいいと思うよー?
“そんなんだからアルマーレに『
――アル君のあれは褒め言葉だと思ってるよ?
“アルマーレは良いことを言ったよ。『糞神』だなんてさ”
――あ、神様酷いと思うなー?
“そう思うなら何もしないでおいてよ”
――何もしないよー? ただ見てるだけだもの。んふふー。
“絶対だからね”
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