第120話 見えた種族の先の先

 魔窟ダンジョンに入って先ずしたことは、ローラルの種を植え付ける為の魔獣を捕らえることだった。とは言え、別にわざわざ探す必要は無く、奴らは歩いていたら勝手に出てくる。


 案の定、のんびりと進む僕達の前にそいつは現れた。


「“飛び付き”だな」

「丁度良い奴が出てきたな」


 僕達から見て右側面の壁に張り付き、こちらの様子を伺っているその魔獣の名を『飛び付きテンカ』と言う。元々は『てん』と言う生物なのだが、それが魔獣と化したことで「テンカ」と呼ばれるようになった。

「テンカ」には様々な意味があり、「貂化てんか」や「転化」と字が当てられたりもする。また「テンカ」と名が付く魔獣は多種存在するが、今回姿を見せた奴は狩りの方法もあって「飛び付き」と呼称される。


 この魔獣、普段は擬態して木々や岩などに張り付いて獲物が近付くのを待っている。そしていざ獲物が間合いに入った瞬間、死角を狙って飛びついてくるのだ。

 今見える『飛び付きテンカ』は体長五十センチ程度の魔獣なのだが、とにかく足が遅い。だからこそ普段は“待ち”の姿勢で獲物が近付くのを待っている。本来機敏な『貂』から進化した生物なのに足が遅いってどうなんだろうな、と疑問に思ってしまう魔獣だ。


 危険度段階は2の下とされており、非常に弱い。

 飛び付いてくる時の速度はそこそこにあるし、鋭い牙もあるので飛び付かれたら危険ではあるのだが、逆に言えば近付かなければ何もしてこない。顎の力もそこまで強くないので、頑強等級値が3-7もあれば十分に耐え切れる――特に身体を鍛えていない成人男性の頑強等級値が3-1程度。騎士や兵、冒険者や傭兵ではないが、普段から力仕事に従事している武具職人や大工のような筋骨隆々の人が3-7程度となる――。

 なので、遠くから弓矢か投槍で攻撃すればあっさり倒せるし、近付いても容易く息の根を止めることが出来る。

 

 まぁ市民にとっては危険だが、冒険者アドベルにとってはただの経験値か小遣いにしかならない存在だ。一応毛皮は素材として売り物になるが、需要と供給の兼ね合いバランス次第では銅貨数枚にもならないし、得られる経験値も少ないので放置されることが多い。


 そんな魔獣に、僕は警戒することなく近付いていく。

 気付かれていると思っていないのか僕を獲物だと思っているのか、二体並んで壁に張り付いている『飛び付きテンカ』はじっと僕を見据えてきている。

 案の定僕が間合いに入った瞬間勢いよく飛びついて来たので、二体の首を鷲掴みにして捕らえる。検証するのに邪魔なので、一体は首の骨をへし折ってから【僕だけの宝物箱カラーレス・ジュエルス】に放り込んでおく。

 当然だが、生かしている方は「離せこのやろう」と言わんばかりに喚き暴れながら爪や牙を立ててくる。ちょっとくすぐったい。


 こうやって落ち着いて見ると中々に愛嬌があるな、なんて思いながら僕はローラルを見た。


「ローラル、こいつどうすれば良い?」

「えっと、どこでも良いから傷を付けて貰えたらいいわ。軽くで良いけど、皮膚は完全に切り裂いて」

「分かった」


 僕は腰に差していた短剣を抜いて、魔獣の背中を切り裂いた。更に強く暴れるが、それを無視してローラルに差し出す。


 頷いたローラルが目を瞑ると、僅かに魂の波動が強くなるのが分かった。【魔力視マジカル・アイズ】で確かめると、彼女の髪全体の魔力が濃くなっており、それは流れるようにして先端へと集められていく。

 暫くして全ての魔力が凝縮された時、ローラルの髪の先に小さな種が生まれていた。例えれば、髪に滴る雫と言ったところだろう。


 ローラルはそれをつまみ取ると、魔獣の傷口に軽く押し込むようにして植え込んだ。まるで身体に染み込んでいくかのように種は姿を消していく。


「お?」


 僕の手中で暴れていた魔獣が突如大人しくなった。

 ローラルを見れば頷きが返ってきたので、そいつを地面に置いた。すると、先程まで暴れに暴れていた魔獣は襲いかかることも逃げることもせず、真っ直ぐに僕を見上げてきた。


「何かして欲しいこととかあるかしら?」

「そうだな……」


 ローラルからそんな言葉を向けられたので、色々な動きを見せてくれと要望を出した。するとまぁ伏せたり二足で立ち上がったり、地面を猫や犬のように転がっては勢いよく起き上がり、左右に広げた前足を手を振るが如くに上下させた。


『ぉぉぉ』


 その様子を見ていた周囲の面々から驚きに染まった声が吐き出された。

 正直に言えば、僕も声を漏らしそうになった。それも仕方無いだろう。人に害することを当然とする魔獣が、まるで愛玩動物のような姿を曝け出しているのだから。


「これは、改めて見ると凄ぇな」

「だな」


 ニールの呟きに頷く。

 これが花人はなひと種は吸血属が用いる種族技能【分種わけみたま】の効果か、なるほどこれは良い。

 僕は何とも可愛らしく手を振り続ける魔獣に笑みを浮かべた。後は視覚や聴覚を共有出来ると言うあれが確かだと確認出来れば完璧だ。


 僕はローラルに支配されている魔獣を掴み上げた。ローラル自身がそうしているのか、手からぶら下がった魔獣はつぶらな瞳で見つめてくる。


「ローラル、今はこいつを介して見えてるのか?」

「ええ、見えてるわよ」

「ちょっと向こう向いて貰えるか?」


 そう言ってローラルに背を向かせ、僕も彼女に背を向けた。用意しておいた、“あること”が記された紙を【僕だけの宝物箱】から取り出し、魔獣の前に広げる。


 その紙に魔獣が顔を向けて少しして、何故かその身体がびくりと反応した。

 僕は不思議に思いながら小首をかしげ、まぁ良いかとローラルに言う。


「ローラル、この紙に何て書いてあるか読めるか?」

「ええ、読めるけど……」

「皆にも聞こえるように読み上げてくれるか?」

「えっ? これ、いいの?」

「構わんぞ。了承は得ているからな」


 どうして戸惑っているのか良くは分からないが、その声には明らかな驚きが含まれていた。その理由が僕には見当もつかない。ここは喜びを分かち合うところだと思うのだが。


 ミミリラの視覚を介して見るローラルは暫く困惑の様子で黙っていたが、覚悟を決めた表情を浮かべると、その場の全員に聞こえる声で記した文字を読み上げた。


「『ニールは十歳の時、イリールに婚姻してくれと告白した』」


 ぶふっ、と誰かが吹き出す音が聞こえた。

 それが誰かを判断するよりも速く、ニールが声を張り上げた。


「ちょっと待て! それはジャスには言ってねぇぞ! 誰だ、誰から聞いた? ガガールか? シリルか? それともメルルか?」

「イリール本人だよ」

「ちくしょう!」


 振り返ると、ニールが両手と膝を着いて地面に項垂れていた。まるで彼の原種の姿を彷彿とさせるような、見事な四つん這いだった。

 ミミリラの視覚越しにその様子は見ていたが、様式美に例えられる程の完璧な崩れ落ち方をしていた。


 イリール本人からは、その逸話を誰彼だれかれに話して良いかの了承は得ている。こう言ったことは他者が勝手に吹聴して良いものでは無いが、受けた方から了承を得ている場合は問題ない。

 なのに、何故か了承したイリール本人までもが恥ずかしそうに両手で顔を覆っている。あの仕草は中々に可愛いものがあるな。


 しかし、何だろう。どうにもこの場の空気に僕だけが取り残されている気がする。ミミリラも僕側ではあるが、それ以外からは何とも表現しづらい空気が漂っている。

 いや、シムシスだけは「ふむ」と言って頷いていたし、彼の集合体員パーティーメンバーも特に表情を変えていないので僕だけがおかしい訳でも無いようだ。


 僕はやや困惑のままニールに近付き、声をかけた。


「ちなみにニール」

「何だ?」

「どんな風に断られたんだ?」

「優しく頭を撫でられたな……」

『うわぁ……』


 僕とミミリラ、シムシス達根魂ねっこ属以外の全員からそんな声が漏れた。声こそ漏らさなかったものの、僕も皆が感じていることに共感は出来た。

 いや、断ったとは聞いていたけどまさかそんな方法だとは。下手に断られるよりも余程にきつい。男として全く見られていない、姉にとって自分は弟でしかないのが行動で示されているのだから。


 イリールは両手で顔を隠したままにしゃがみ込んでいる。

 僕が始めたことだが、この話題はこの辺りにしておこう。イリールの反応が普段との落差ギャップで可愛いと言えば可愛いのだが、このままでは犬耳姉弟してい経験値稼ぎレベリングどころでは無くなってしまいそうだ。





 この世界、近親婚は普通にある。

 そして王侯貴族にとって姉や妹、あるいは兄や弟に想いを告げる行為は、最大級の親愛行動としてむしろ褒められるべき行為だ。例え断られても誰に恥ずることなく口に出せる。


 お家に於いて大事となる一つに、親族間の不仲を避けると言うものがある。

 親族間で不仲になれば軋轢あつれきを生み、下手をすればお家騒動に発展するからだ。求愛する程に親族を慕っているのであれば、それを避けることも出来る。

 そう言った理由から、むしろ望ましくもある事象だ。


 ただ一応の作法マナーもあって、想いを告げた方の人はそれを自らの口で誰かに伝えることは基本しないし、密かに聞いた人も吹聴することは無い。褒められる行為であっても、褒められる側が自ら広めたのでは自画自賛にしかならないからだ。

 逆に想いを告げられた方は多くの人に伝えることが礼儀とされる。

 それを聞いた側も、「某伯爵家の嫡子が来年にでも己の妹君をめとることを決めたらしいぞ」と笑顔で人に伝えることが出来る。広められた側も、その行為に敬意を評して「何とご立派。贈り物を選んでおかねばな」となるのが一般的だ。


 これが王族の話になれば、それはもう色々な意味で盛り上がる。

 アーレイ王国でも何度か事例としてあるが、他国では国王と王妃が兄妹けいまい、あるいは姉弟していだった場合、この治世は安泰とまで謳われることもある。

 まぁ実際はそんなことも無く、逆に王妃側の生家せいかが国王の抑止力足りえないので甘い体制になることも度々ある。外戚とは時に国政の障りを生み出すが、影響力が弱すぎる状況は違う懸念を生み出してしまう。国王の方針だけが暴走する事態になりかねないのだ。


 アーレイ王国でも嘗て、一度だけそれがあった。

 御歴代国王の中で、僕が最も嫌悪し軽蔑し無様と評する、「王の資格無し」として王太子に斬られた、第三十三代目アーレイ国王であるカター=ル王。

 アーレイの血を汚したあの愚王は、国法を蔑ろにしたとある貴族に明確な理由も無く大赦たいしゃを与えた。


 この国では、王侯貴族が天至の塔バベルや魔窟を独占して使用すること、またその二つの出入りに税を掛けることを禁じている。それを許してしまえば、冒険者のみならず、商人オーバルやその他に多大なる負の影響を与えるからだ。

 冒険者は己を鍛え金を得る為の場を失い、商人は冒険者が流す素材を手にすることが出来なくなり、それを必要とする職人は物を作れなくなり、市民の手に生活用品が渡らなくなる。

 無論これは極論であり、完全に物の流れが止まることは実際には起こりえない。しかし、こう言った負の連鎖は最終的に国へ損失を与えることに繋がる。


 とある愚かな領主はそれをしてしまった。国法を破ったのだ。

 で、ありながら。カター=ル王はその領主に対し「気持ちは分からんでもない。今後気を付ければよい」などと言って、何のお咎めも無く許してしまったのだ。

 絶対的な強者として国の法を守り、支配者達の抑止力足るアーレイ国王が、諸侯の勝手を許してしまったのだ。

 この瞬間、カター=ル王はアーレイ王国で最も価値の無い存在へと成り果てた。


 カター=ル王はその日の内に我が子である王太子に斬られた。

 骸と化した玉体ぎょくたいは埋葬されることなく、魔獣に食わせるという最悪の処分をされた。

 その後、カター=ル王に送られた諡号しごうは侮蔑の意味を溢れんばかりに込められた『弱王』。アーレイの王族として最も屈辱的な悪諡だ。


 当時の王妃は、カター=ル王の実姉じっしだった。

 この王妃は王を支え諌める立場にありながらもそれを怠ったとして、我が子である王太子により世界へ還元するその日まで幽閉されることとなった。

 その手に掛けなかったのは息子として最後の恩情だったのだろう――凄まじく母想いだったと記録には残されているので、手に掛けることが出来なかっただけかも知れないが――。


 近親婚に於ける利点メリットを否定するつもりは無いが、僕としては国王と王妃の関係性が兄弟姉妹けいていしまいと言うのはあまり肯定的にはなれない。

 少なくともアーレイ王国では国王が絶対的な力と権威、権力を持っている。王家と言うお家を乱す阿呆あほうなんて斬れば話は済む。ならばお家の軋轢を気にするよりは、他家との繋がりを強くした方が余程に価値があると個人的には思っている。


 最後に、これは姉弟していに関しての余談だ。

 僕がまだ幼い頃、第一側室の娘であるリリス姉上に、話の流れで「国王になった暁には側室にして差し上げましょう」なんて言ったことがある。

 姉上はさぞ嬉しそうにしていたものだが、僕は王太子、そう言う反応を返して当然だった。私的な場面では姉弟していらしき関係も築けていたし、あれは姉としての対応でもあったのかな、と今になって思う。

 ニールとイリールの逸話を鑑みれば、より一層それが正しい気がしてくるな。




 意気消沈しているニールと恥ずがるイリールの反応を見て、どうやら王侯貴族とそれ以外では解釈が真逆なようだとここに至って初めて僕は理解した。

 生まれや地位からくる違いがあるとは言え、ここまで反応に差が出てくるものかと僅かな驚きを覚え、それを知ることが出来たのは良い勉強だったなとも思う。


 まぁ晒し者にしてしまった形のニールが流石に哀れなので、今度美味い酒をたらふく飲ませるか、王都の高級宿で高級娼婦に埋もれる時間でも過ごさせてやるとしよう。凡ゆる苦難を女で乗り越えて来たニールなら今日のことなんてその日の内に忘れてくれると信じている。

 イリールは寝床で慰めてやればむしろ喜んでくれるだろう。


 気を取り直して。

 何だか悪いことをしてしまったと言う表情を浮かべるローラルを他所よそに、僕は近くに立っていたサガラの男、ウームルに魔獣を手渡し、離れたところで背中を向けたまま小声で何か喋り掛けてくれと頼む。

 ウームルは言われたままに動き、その後ローラルと答え合わせをすればきちんと聞こえていた。


 これで【分種】が正しく役立つことが証明された訳だが、一つの疑問が浮かんでくる。


「なぁローラル。お前確かこれまで支配した中で最高は危険度第5段階の中だったよな。それを含め、どうやって町を滅ぼせるだけの魔獣を手に入れたんだ?」


分種これ】は魔獣の身体の中に種を植え込むという過程が必要となる。しかし植え込むには必ず捕らえるか弱らせないと駄目だ。

 今回は魔獣が弱く小さく、そしてどれだけ爪や牙を立てられようと傷一つ付かない僕が直接手で捕らえていたからこそ可能となった。


 町を滅ぼす為には多数の町民、多少なりの冒険者達、そして主戦力では無いにせよ対峙していたコンコラッド公爵軍を相手取り勝利しなければならない。

 危険度第2段階までは市民でも倒せる。猟師など普段から獣を狩って糧を得ている者達が群れて倒せる限界が危険度第3段階の下と言われている。

 裏を返せば、ある程度訓練を受けた兵士が数人、戦いの経験を経た騎士や冒険者なら一人であっさり倒してしまう。

 ローラルは町に攻め込む際に、危険度第1段階から危険度第5段階混合の魔獣を二千体突撃させたと言っていた。その数なら少なくとも危険度第3段階以上が半数は居なければ対等の戦いにはならない筈だ。


 まぁ人の手のひら程度サイズで足の速い魔獣が千体以上一斉に襲いかかる、と言う条件なら逆に効果的だろうが、それはそれで支配する集めるのが大変だろう。


 そんな疑問の答えをローラルが口にする。


「次期長には、族長の使役する魔獣を使って弱らせた危険度第5段階の魔獣が与えられるの。いつ代替わりが起きても良いようにね。それと併せて、一族の一部には危険度第4段階以上の魔獣を何体か支配させるようにしていたから、それらを用いてどんどん支配を増やしていったわ。

 元々森に住んでいた時も、それなりの数は普段から使役していたの。そうじゃないと野良の魔獣に襲いかかられた時に私達が危険だから」

「なるほどな」


 聞けば何てこともない、そうだよな、と言う答えだ。

 花人種吸血属は種族技能に優れていても、それ無くしては己の身を守ることすら困難なのだから。


 それに、とローラルは続ける。


「実際、魔獣の危険度段階はそこまで重視していなかったから、とにかく数を確保することに終始していたわ」

「魔獣の強さを重視していなかった?」

「ええ。実を言えば、私達吸血属の二千体は陽動に近い形だったの」

「陽動」


 ちょっと意外な言葉が出てきたな。

 てっきり強襲に近い形で一斉に襲いかかったのかと思っていたのだが。


「ええ。もちろん戦力として扱っていたし、それなりに強い相手も倒した。けれど、本当の手札はシムシス達根魂属で相手の大将を狙うことだったの。大量の魔獣で相手を混乱させて、その間に足の速い魔獣に乗った根魂属が敵の大将に突撃、そこから敵軍を崩壊、と言う感じね」

「ほぅ」

「不意を突く為に、時間帯は夜深くを狙ったわ。魔獣もそうだし、シムシス達根魂属は夜目に強いから」


 所謂一種の奇襲作戦だ。夜襲と味方の撤退作戦も含めていることを考慮すれば、軍が用いる複合的な戦術とも言える。

 奇襲自体は基本的な戦術ではあるが、成功すれば著しい戦果を得られる。ローラル達は見事にそれを成功させた訳だ。

 それはつまり、シムシス達根魂属は切り札に成りうる程に強かったと言う証明でもあるのか。この後に見るシムシス達の戦い振りが非常に楽しみになってきた。


 ……夜の暗闇に包まれた森の中から二千体の魔獣とそれなりの力を持った種族が一斉に襲いかかって来たのか。実際にそれを味わった奴らからすれば悪夢以外の何ものでもないな。


「ふーむ」


 ローラル達が二千体もの魔獣を支配出来た理由は分かった。しかし、今の彼女達は当時のような強力な魔獣を使役していない。つまりローラル達に多くの魔獣を支配させる為には、かなりの人手と手間が必要になる。

 元々手伝う予定ではあったが、これはローラル達と多少のサガラだけでは厳しいものがある。魔獣を狩ると捕らえるではその難易度に隔絶したものがあり、下手をすれば危険度段階の意味が変わるくらいには危険な行為だ。


 魔窟ここなら多数の魔獣は居るだろうが、今回この魔窟探索はどちらかと言えば経験値稼ぎが主目的だ。捕らえてばかりではサガラの経験値にならない。

 ビードル大森林に放つ魔獣に関しては現地調達でも良いが、あれだけ大規模な大発生スタンピードの後だ、もしかしたら魔獣の数が激減している可能性もある。


 いっそ危険度第3段階以上の魔獣に関しては、僕が【間の間マナ・リル】と【アーレイ王国ロワイダム・ドーファン】を用いて一気に捕獲するのが最善な気もしてきたな。


「ん、分かった。そいつはどうするかな。使役しながら探索は出来そうか?」

「問題ないと思うわ。戦闘に参加させないなら、『離れないで付いて来て』と言う指示で十分だから」

「じゃあそうして……いや、やっぱり邪魔だな。俺が連盟拠点ギルドハウスに転送する」


 言うなり、僕は連盟拠点に待機しているサガラに『以心伝心メタス・ヴォイ』で連絡を取り、今から魔獣を送るので人目に付かないところへ隠しておいてくれと指示を出した。

 待機組からすぐに了承の返事が来たので、【母の手ラ・メール】で癒した後に【間の間】で魔獣を転送する。ローラルにも、魔獣には向こうの奴らの指示に従うよう頼んでおく。

 今回の探索では経験値にも素材にもならない魔獣は支配させることに決めた。魔窟の低階層は小型の魔獣が多いし、諜報に用いると言う点ではむしろ好都合だ。


 さて、これでローラル達吸血属の種族技能は今後の問題点含め確認出来た。

 次は根魂属だな、と僕はシムシスに視線を向けた。


「シムシス」

「はい」

「お前達、これまで狩った最高の危険度段階は?」

「私単独で第5段階の中ですな。第5段階の上よりも危険度の高い魔獣には出会ったことがありませぬ故」

「……」


 普通に強いと言うか、その辺の騎士や冒険者第5段階アドベルランク5の冒険者より余程に強いんだが。

 今の口振りからすれば、危険度第5段階の上が出てこようとも問題ない、と言っているようにも受け取れる。

 先日見た個体情報ヴィジュアル・レコードではそこまで強いことは無い筈なのに、それだけ種族技能が強力と言うことか。


「ただ、私の一族の者達は危険度第3段階であろうとも、身を守る程度が関の山でしょう」

「なるほど」


 確かにそうだ。現にシムシス以外の集合体員は一気に強さが落ちている。

 それにシムシスは元々次期長であり現族長、強くて当然なのかも知れない。規模の小さな集落なので一概に国とは比較出来ないが、地位としては王太子みたいなものだったのだから。

 そもそもシムシス達は希少も希少な種族。人種とは根本的に戦い方が違うのだから、比較する行為に無理があるのかも知れない。

 逆に直接的な戦闘に於いて、シムシスでは上位の騎士や冒険者には敵わないだろう。


 しかし、次期長であったシムシスでこれなら、前族長だったシムシスの父はどれだけ強かったのか。成人していた一族もそれなりに力があったと仮定すれば、僕は根魂属に対する認識を改める必要があるのかも知れない。


「じゃあ二十一階層まではサガラ集合体三組3パーティーを前に、次に俺、その後ろにローラル、最後尾がシムシスで進もう。敵は見敵即殺。調子ペースよく行こうか」


 その言葉に全員が返事をする。

 階層下り口までの最短距離は分かっているし、もし道が変化していても僕の【万視の瞳マナ・リード】ですぐに分かる。多分あっさり二十一階層まで行くと思うな。


 そんな僕の予想は見事的中することになった。

 自分達の持ち味を存分に発揮したサガラ集合体三組3パーティーは、素晴らしい集合体連携パーティープレイで敵が現れるなり瞬殺。遠くに見える場合は女衆が弓矢か魔術で倒していた。

 そもそも実際に戦っているのは集合体一組1パーティーだけだ。それでも過剰戦力に見えると言うことは、僕が居ない間に余程魂位レベル能力値ステータスを上昇させたに違いない。


 サガラ集合体三組3パーティーは僕達よりもやや先行して進んでおり、獣人種や裏人としての優れた感知技能を発揮して見敵即殺を成し遂げている。僕達が戦闘場所にたどり着く前に戦いが終わっているので、殆ど止まること無く探索は続いていく。

 経験値や素材としての旨みが無い魔獣は動けない程度に痛めつけて、随時ローラル達に種を植えさせる。支配が終われば【母の手】で回復してから【間の間】で連盟拠点へと転送させていく。

 経験値となった魔獣の死体はそのまま【僕だけの宝物箱】に回収しているので、無駄な解体、素材回収時間は無い。最早探索と言うよりも散歩だな、と思ってしまう程に順調だった。


 そのままの調子ペースで進んでいき、一度十階層で軽い休憩を挟んでまた探索を開始する。

 天至の塔や魔窟には、不思議なことに一切魔獣が現れない安全地帯セーフティースペースがある。ここガーランド保有の魔窟なら、各階層への下り口手前にある広場がそれだ。

 本来は一階層ごとに小休止を取るのが普通らしいが、僕達にそんなものは必要ない。軽い休憩を挟んだのも、体力に劣るローラルとその集合体員の為だ。鍛えられたサガラと体力に優れた根魂属だけならそのまま進んでいただろう。


 さて十一階層に潜り魔獣の危険度段階が変わっても、状況は殆ど変わらない。支配する魔獣が減ってきたのでむしろ最初の十階層よりも早かったくらいだ。

 再び二十階層の下り口手前で休憩を取り、とうとうやって来た二十一階層。

 ここからは魔獣の危険度段階は一気に上がり最大で4の上。実際に潜ったニール達の言葉では、特殊個体らしきものは見ていないと言う。

 まぁ危険度第4段階の特殊個体なんて討伐の任務や依頼が出るほどに脅威的な魔獣だ。そう簡単に出てこられては危険過ぎて誰も探索しようとは思わないだろう。


 再び最短距離で進むこと十分も経たない内に、最初の獲物が姿を見せた。

 現れたのは、端的に言えば蜥蜴とかげだった。体長は頭から尻尾の先まで凡そ三メートル。普通の蜥蜴と違うのは、足が六本あることだ。また六本と言っても並んで生えている訳では無い。前足こそはそのままの位置だが、後ろ足は下半身の四方に生えており、まるで人のように立ってこちらを見据えている。


 斡旋所が発行している魔獣図鑑によれば、個体名は『六足毒蜥蜴』。

 僕の記憶が間違って無ければこいつは危険度第4段階の上なんだが、二十一階層に下りて最初に出てくるのこれってちょっと酷いと思う。


 こいつの戦い方は、毒液を吐く、尻尾を振り回す、鋭い爪で切り裂く、近付きすぎると凶悪な牙が歓迎してくれる等々などなど。魔術や属性系技能を使ってくることは無いが、中々に素敵な直接攻撃を仕掛けてくる。

 膂力りょりょくもあり顎の力も強いので、一度掴まれたり噛まれると力等級値が低い人では抜け出せない。もたついているとその状態で毒液を吐きかけられる。

 鱗や内側の肉が分厚く頑丈なこともあって中々に面倒な相手ではあるが、足が遅いのでそこが弱点と言えば弱点だ。


 冒険者第3段階アドベルランク3だけで構成された七人集合体一組1パーティーがこいつと出会った場合、即座に逃げ出す程度には強い魔獣と言えば分かりやすいかも知れない。

 冒険者第4段階アドベルランク4だけで構成された集合体なら「どうする?」、「どうしよっか?」と悩んだ挙句に嫌々狩りを開始するだろう。

 冒険者第5段階だけの集合体ならただの経験値とお小遣いだ。


 そんな魔獣が五体も群れている光景を見つめたままに、僕は言う。


「シムシス」

「では」


 端的に答え、シムシスは前に歩み出た。一応その後ろに彼の集合体員が続いているが、戦う様子は見られない。予想は出来ていたが、やはり一人で戦うようだ。


 どう見ても今のシムシス一人では絶望的な状況だが、まぁ勝てそうになければすぐに助けるつもりだ。即死さえしなければ問題はない。

 無論即死どころか傷一つ付けさせるつもりは無いので、シムシスには既に【五色の部屋サン・ク・ルーム】を張ってあるし、【悪性還元リターン・ヂェイド】も掛けている。奇跡的に傷付けられても即座に【母の手】の温もりが彼を包み込むだろう。

 彼の種族技能を見る限り不要ではありそうだが、流石に戦力差が大きすぎる。念には念を入れて損はない。


 さてどんな風に戦うのかな、と思っていると、シムシスはまだ蜥蜴から距離があるところで立ち止まり、手に持った槍の柄の先端を地面に叩きつけた。

 音に反応して警戒の様子を見せる蜥蜴達に構えることもせず、シムシスは重々しい言葉を吐き出した。


「『邪なる害虫を駆除すべし』」


 突如、シムシスの衣服の裾から細い木の根が大量に伸び出してきた。

 それらは地面に到達すると表面を覆い始め、傍目にはまるで木からシムシスの身体が生えているようにも見える。


「『れてはえよ、我が根魂ねっこ』」


 言葉の直後、蜥蜴の立つ地面から幾つもの太い根が一斉に飛び出してきた。

 それらは瞬く間に全ての蜥蜴を捕らえ、まるで巨大な手で握り締めるかのように拘束していった。蜥蜴達は甲高い叫声きょうせいを上げながら引き剥がそうとしているが、太い根はびくともしていない。


「『我が糧となれ。糧をあるじへ捧げる為に』」


 言葉にいざなわれるようにして、その根から更に細い根が生え出してくる。

 幾百にも伸びるその根はまるで、果て無き亡者達が伸ばす幾千の腕が如く。飢えた根は蜥蜴に張り付くと瞬く間に表面を覆い尽くしていき、その姿を飲み込んでしまった。

 それは例えるなら、地面から生えた木の繭。中に居るのは幼虫でもさなぎでも無く、弱者へと成り果てた哀れな魔獣である。

 それでも聞こえていた僅かな叫声も徐々に弱くなっていき、根が作る繭の体積が小さくなっていくのが分かった。

 まるで木の根が魂を吸い取っているようだ、と思った。

 恐らくこの想像は間違っていないだろう。あの繭の中では今、魔獣と言う脅威がただの栄養と化し、全てを根によって吸収されているのだ。


 その状態でどれ程の時間が過ぎただろうか。数分は経っていた気もするが、目の前の光景があまりに異常で、時間の流れを感じることすら出来なかった。

 蜥蜴の声は無くなり、繭の収縮も完全に収まった静謐な空間の中、シムシスが一つ頷いた。根の全ては地面へと戻っていき、暫くするとシムシスの下半身を覆っていた根もまた姿を消していった。


 後には何も残っていない。死した骸が世界へ還元されるが如く、そこに魔獣の姿は一片たりと残っていなかった。


「……」


 それを見る誰もが言葉を失っていた。


 僕もそうだったが、恐らく皆とは思っていることが違っただろう。僕の頭にあるのは、もし根魂属が敵対した場合、最優先で処理しなければいけないと言う考えだけだった。

 シムシス達を疑うつもりは無い。既に金の神への誓いを立てているし、契約紋カラーレス・コアを刻んでいる。しかし、今後シムシス達ザンド一族以外の根魂属をザルード領内で発見した場合、こちら側に付かなければ殲滅すると心に決めた。中立なんて認めない。敵か味方か。味方にならなければ全て敵対認定だ。


 この種族は危険に過ぎる。ローラル達吸血属の種族技能もそうだが、もしかすると植物種とは僕が思っている以上に脅威的な種族なのかも知れない。この二つの種族が例外であることを願うばかりだ。

 まぁ本来花人種は最弱種族として名を広げているので、ローラル達吸血属が例外なんだろう。


 そんなことを思いながら戻ってくるシムシスを迎える。


「如何でしたでしょうかあるじ殿」

「凄いな、という一言に尽きるな」


 どこか誇らしげな表情で聞いてきたシムシスに、僕は素直な気持ちを吐露した。その言葉に喜びの笑みを浮かべ、シムシスは僕の前に立った。


 僕はシムシスの強さを見た上で、疑問に思ったことを問いかけた。


「シムシス達一族はどうやって敵陣に攻め入ったんだ? 今の戦い方なら動くことは出来ないだろう。それともローラル達の使役する魔獣に根を張ったとか?」

「いえ、今のは私達本来の戦い方とは少し異なります」

「と言うと?」

「本来はあの根を用いながら動き回り、直接戦闘を行うか弓で遠くから攻撃します。ここ魔窟内は木々や草などと言った、所謂自然が存在せぬので、致し方なく自分を地面に植え付け、根を生み出したのです」

「つまり、周囲が森なら、その木々の数だけ根を生み出せると?」

「正確に言えば、生えている根を成長させ増やし用いるという形でしょうか」

「なるほど」


 僕は納得の頷きを返した。同時に、どうしてシムシス達が土地を追われたのかについて甚だしい疑問を抱いた。


 こいつら、立派な戦闘種族だ。それこそ敵対すれば最優先に滅ぼすべき危険な種族だ。


「なぁシムシス」

「何でしょう?」

「お前達、町を攻めずに森の中で待ち構えてた方が正解だったんじゃないか?」


 あんな凶悪な技能と直接戦闘が併用出来るなら、自分達の活動拠点ホームから出るなんて愚行でしかないだろう。


 そんな僕の疑問に、シムシスは毅然とした表情で頷いた。


「仰る通りでしょう。事実、森の中で戦っている間の我らは優勢に戦えておりました。僅かに世界へ還元した者、また連れ去られた者もおりましたが、他種族に比べると遥かに少ないかと」

「それならどうしてだ?」

「先のことを考えれば、やはり物量の差で敗北すると予測出来たからです。どれだけ強くあろうとも、有利な条件で戦おうとも、英雄にも至らぬ我らではいずれ押し負けるでしょう。また騎士や兵、冒険者程度ならともあれ、爵位を持つ上位者が先陣を切っては甚大なる被害が出ます。それが公爵なら何をか言わんや。

 それに、万が一森に火を掛けられてしまえば我らに成す術はありませぬ。故に、他種族との反撃作戦に参加することを決めました」

「ああ、なるほど」


 至って当然とも言える答えだ。

 確かにどれだけ森の中で強くあろうとも、それを燃やされてはどうしようもない。しかもシムシス達は植物の種族。火属性には滅法弱い。ならばその選択を取られる前に反撃しよう、そう決断するのは何もおかしくない。

 今回は奴隷狩りだからこそシムシス達を滅する選択をしなかっただけで、そうで無ければこんな危険な種族、火の一つも掛けて当然だ。少なくとも僕なら危険と判断した時点で皆殺しにする。


 でも、それならどうしてコンコラッド公爵は自ら先頭に立って奴隷狩りを行わなかったのだろう? 仮にも公爵、自分がその辺の他種族に負けるだなんて思う訳も無いし、実際に負ける訳が無い。

 ザルード公爵家屋敷でお祖父じい様直々に手解きを受け、公爵級と言う存在が持つ本当の強さを身に刻んだ後なだけに、尚更そう思う。屋敷で過ごした十日程の間、僕は――攻撃系魔術無しと言う条件ではあるが――お祖父様に傷一つ付けることが叶わなかったのだから。

 そう考えれば、コンコラッド公爵自身は違う他種族のところで大暴れしていたのかな、と思ってしまう。ローラルが「一つの種族はその殆どが散っていった筈」と言っていたし、そこで槍を振るっていたとか。


 ともあれ、疑問こそ残ったものの根魂属――シムシスの強さは嫌と言う程に理解出来た。

 僕は納得したと言わんばかりに一つ頷き、全員に指示を出した。


「取り敢えずさっきと同じ形で進もうか」


 僕の言葉にそれぞれが元の配置に戻り、魔窟探索を再開する。

 一定の速度で魔窟の奥へ足を進めていく中、僕の頭に浮かぶのはシムシスの戦いとも言えぬ戦闘の姿だった。

 対峙したのは危険度第4段階の上が五体、シムシスの能力値では決して勝てる相手では無かった。仮に勝てたとしても、傷一つ負わないと言うのは絶対に不可能だった。

 しかし、実際は魔獣の方こそシムシスの相手にもなっていなかった。

 優れた技能は対峙する相手の能力等級値を凌駕するとは言うが、脅威的な技能は本人の能力等級値を不要にするんだな、と言うことがよく分かった。今後は魂位や能力等級値だけではなく、相手の持つ技能にも重々注意を配るべきだろう。


 何だかシムシス達が優秀なことを知れば知る程、その扱いに困ってくるな。選択肢が多いのは嬉しい悲鳴だが、それだけ悩みが増えることでもある。

 根魂属の真価は内政面では無く、戦に於ける拠点防衛にこそあるのでは無いかと思うようになってきた。完全な自給自足を可能とするのだから、頑強な砦に放り込めば金城湯池きんじょうとうちの完成だ。それだけで戦略的な価値が生まれる。

 平野でも本陣の守りに置けば凄まじく頼もしいが、内政面に於ける重要度が高すぎて、戦に連れて行くなんて選択肢は選べない。


 もしかしたら、根魂属を正しく用いる為の最重要課題は、彼ら、彼女らの繁殖、繁栄なのかも知れない。あまりに利用価値と希少価値が高すぎて、どれか一つだけをさせることに非効率を感じてしまう。だが複数のことをさせるには一族の人数が少なすぎる。


 シムシスが引き連れている一族で女は十五人。しかし全員が成人前だ。根魂属の婚姻適齢期、あるいは出産適齢期がどれくらいになるのかは知らないが、流石にまだ子を宿すには早いだろう。

 僕は配下に理不尽な婚姻やまぐわいを強制するつもりは無いので、彼女達が己の子をはぐくめる年齢になるまでは一族同士での繁殖、繁栄は不可能となる。


 そうなれば伴侶となる相手は……そんなことを考える僕の頭に、「必要なら幾らでも抱いて良いわよ?」と口にしていたローラルの悪戯な笑みが浮かんだ。


 花人種吸血属は女ばかりの種族で、性に対して大らかと彼女は公言していた。

 自分達の子を宿すには他種族の子種を必要とする。「近くの種族の男から」子種を貰っていたと言うことは、恐らく相手は植物種でなくても大丈夫だろう。森人種は植物種だが、土人種は“土と言う物体”が変化した種族なのだから。

 土と植物、双方とも自然が関係する種族だから微妙なところもあるが、滅ぼした町の人種や他種族から子種を手に入れていた可能性もある。少なくともローラルの口振りからして、他種族への偏見や嫌悪はないだろう。生まれる子は全て女児だが種族は別とも言っていた……なるほどなるほど。


 ローラルの一族もシムシスの一族も、それぞれ一族の者が減ってしまい困っている部分はあるだろう。

 そして、それはサガラにも同じことが言える。

 サガラの男衆はローラル達を僕の女候補と見なしているのか、サガラの女衆やアンネ達娼婦に対してのものと同じ距離感を保っている。恐らくは今後合流するローラルの一族に対しても同じ姿勢で接するつもりだろう。

 だが、僕が彼女達を手折る心持ちが無いことを伝え、伴侶を持つことを許可したらどうだろうか?


「ふむ」


 僕がサガラ族長であるミミリラを流し見ると、僕の思考の全てを読める彼女はとても柔らかい微笑みを浮かべてくれた。なるほどなるほど。


 以前から抱えていた重要課題、その問題解決の糸口が見えた気がして、僕は今後のことに考えを巡らせた。

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