第20話 護衛という名の散歩
そんな訳で昼過ぎ。約束通り城壁外での待ち合わせ場所に向かう。
僕の【
魔導書を売っている店に行っても、また聞いても残念ながらそれに関する魔導書は無く、仕方無く普通の書店で人体構造についての本を探したらそれに関する内容の本が売ってあったのだ。
それを読んで避妊魔術の理屈については理解出来た。これを知ることが出来ただけでも十分な収穫だった。
ニールには褒美代わりに金貨を渡してやっても良いくらいだ。
「おーうジャス、こっちだこっち」
そこには七台の馬車とニールの
「ラーセルさん、これが話してたジャスパーだ。強さの保証はするぜ」
「そうか。ジャスパーさん、ラース商会のラーセルです。よろしくお願いします」
手を差し伸べられたので握り返す。
「そこで、すいません。疑う訳では無いのですが、
「ああ、どうぞ」
首にかけていたそれを見せると、ラーセルとやらは満足したように頷いた。
「ニールさんに聞いていた通りですね。改めてよろしくお願いします」
一度頭を下げてから、彼は馬車の方へと戻って行った。
「馬車多いな? 小さい商会って言ってなかった?」
「ああ。あれでもな。後今回は結構多めに品を運んでいるらしくてああなった。だから今回参加してる他の集合体も、ありゃ
七人集合体が二組、そして僕達五人を合わせて計十九人の護衛
ジャルナールからは東に向かう街道やその周辺が危ないとは聞いて無いんだけど。もしくは狩りがしたい旨を伝えただけだからそれに適した場所だけを教えてくれていたのかも知れないな。
「『リリアーノ』の
「こっちは『グリーグ傭兵団』の
片方は爽やかな成年。片方は筋肉質な壮年と言った男。ただどちらも自信が有りげな表情をしている。装備もきちんと備えられて、まさに
と言うかマッシュ、
彼らを見ながら思う。この中で一番冒険者らしくないのは僕だろう。完全に浮いている。なんせ冒険者用の少し分厚いだけの服にただ外套を羽織っているだけ。剣は其の辺で売っている安物だし、防具らしい防具は無く、旅路に必要なものは見せかけ用の布鞄一つだ。良くも文句を言われないものだと思う。
例えるなら貴族のパーティーに普段着で乗り込むようなものだ。冒険者や傭兵にとって、装備、武器防具こそが礼服なのだ。
「じゃあ出発しましょう」
ラーセルの声に代表者達が返事をして、出発となった。
※
護衛とやらをどうやるのかはさっぱり知らないけれど、聞いた話では前方を『リリアーノ』が、左右を『グリーグ傭兵団』が、そして僕達は後方を担当することになっているようだった。
馬車の並びは先頭に『リリアーノ』が一台、そこからラース商会五台が続いて最後に『グリーグ傭兵団』が一台となる。
連盟が馬車を用意しているのは、道中や野宿の際の休憩場所、または怪我人などが出た際に運ぶ為と言う。
ただこれが出来るのは大体が連盟集合体だけであり、ニール達みたいな野良集合体単位では赤字になる場合や儲けが少なくなる関係で殆ど使わないらしい。
その代わりもちろん、移動の際は苦労や
「なんて言うか。歩いてるだけって感じだね」
「いや、一応周囲の警戒とか必要だからな? ほら、『グリーグ傭兵団』だって馬車の上に乗ってずっと左右の警戒してるだろ」
確かに、索敵担当らしき二人が常時左右を見張っている。僕達はそうもいかないので普通に歩いているけれど、ニール曰く耳が良いので常に音に気をつけているのだとか。流石狼と犬の合いの子だな。
折角なのでちょっと、冒険者の
「ねぇ、例えば探知系の魔術を使ったとして、それは使われたのが分かるもん?」
「んー。基本的には分からない。が、【
「へぇ」
試しにそれなりの威力の【
それから歩いて歩いて歩いて三時間程が経った頃だろうか、一度目の休憩を挟んだ。
休憩と言っても護衛する人は周囲を警戒している。ただその人数を多少減らしたと言うだけだ。休まないといざという時に、と言うことだろう。いいからさっさと進んで欲しいのが本音だ。
「しかしジャス、お前さんぜんっぜん疲れた顔しないのな」
「まぁ、ね」
実際疲れていないのだから仕方無い。伊達に体力第6等級を持っていない。
「明日の夜くらいに到着予定だっけ?」
「ああ。途中で何も無ければな。それと、予定時間ってのは大体多めにとってるから、本当に順調に行けば夕方には着けるだろうよ」
面倒なものだな、と言うのが素直な思いだった。まぁ長距離の移動なんて、馬車に乗ってれば良いだけの記憶しか無いからかも知れないけれど。
しかし野宿どうしようかな。ベッドの無いところで寝るなんて人生で初めてだ。寝れるかな?
そんな不安を抱えながら移動を再開すると、暫くして馬車の横を並走していた『グリーグ傭兵団』の一人が近づいて来た。
「どうやら刃金鳥が上空をウロウロしているらしい」
全員が一斉に上空を見ると、確かに何か鳥らしきものが上空をウロウロしているのが見える。
「大丈夫だとは思うが、注意しておいてくれ。夜まで付いて来る様ならまた打ち合わせよう」
「了解だ。感謝する」
報告してくれた人が定位置に戻って行くと、全員が難しい顔をした。
刃金鳥とは、文字通り翼の部分が刃のように硬く鋭い羽で覆われており、戦闘になればそれを飛ばしてくる。
基本的な狩りの仕方は、上空から獲物を探し、油断しているところを一気に急降下しその鋭い爪で掴みさらっていく。それに失敗したら即座に羽ばたいて刃金のような羽を飛ばしてくるのだ。もちろん嘴も硬く鋭く、近づいた冒険者が何人もそれで命を落としている。確か危険度段階は討伐の面倒さもあって4の上だったか。
気をつけていればこの鳥、下りて来ることは無いのだけど、問題は夜目も効くらしく、もしも狙われたらしつこいくらいに追い続けて来るらしい。
幸いにも見える限りでは一羽なので、まぁ対応次第では問題無いだろう。
だが今回は護衛だ。仮に馬を狙われたり夜に襲われると非常に面白くは無い。
「こういう時はどうするんだ?」
「ぶっちゃけて言えばどうしようもねぇな。ひたすら注意しつつ諦めてくれるのを待つだけさ」
「……」
僕は上空をくるくるゆっくりと旋回するそいつを見上げた。
先日倒した猿蜘蛛もそうだったけれど、どうにも見下ろされると言うのは不愉快極まりない。父上や母上ならそれが当然なのでなんとも思わないのだけど、それ以外は気分が悪くなる。
鳥を見つめたまま【
近くだったら生々しい音を立てたであろうその身体を上空から引っこ抜くように落下させ、潰れるくらいの勢いで地面に叩きつけた。
身体の中身が飛び出してさぞかし軽くなっただろう。もうその翼が羽ばたくことは無い。僕を見下ろすような下郎にはそこがお似合いだ。
急に落ちて来た上に爆音を響かせたので、全ての馬車が驚いて止まった。慌てて他の連盟の索敵担当が確認の為に飛び出して行く。うちからもリス耳のシリルが飛んで行った。
「なんだありゃ」
ニールもその瞬間を目の当たりにしていたのだろう。目をまん丸にしながら落ちた地点を見つめている。
僕は自分を見つめているイリールと視線を合わせると軽く首をかしげた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます