第18話 初めての協力者
一人なら
二人なら
三人以上なら
常時単独活動を主としている人は
常時協力者や集合体を組んでいるものは固定が頭に付くが、そうでない場合は一時協力者や一時集合体とも呼ばれる。
また多人数の集合体として組織化された
特殊な例として、複数の単独者や協力者、集合体で組まれた集団を
加えて言えば、連盟に属してない協力者や集合体は野良と言われる。
今回僕とニールはつまり一時協力者と呼ばれるものになる。ニール自身は普段は都合の良い時だけ組む中途半端な野良の固定パーティーが居るらしい。ようは暇だったのだろう。
この都市に最も近い
入口には守衛兵が立っている。盗賊みたいな奴らが勝手に入り込み、上層階の魔獣を狩りつくしたり、あるいは入ってくる冒険者や
つまり、基本的には冒険者や傭兵、あるいはそれらが連れた
「ところでジャスは魔窟は初めてなのか?」
「だね。どんなところなのかちょっと楽しみだよ」
「ははっ。安心しろよ守ってやるからよ」
「期待してるよ」
そう言って入ったものの、十階層までの魔獣の弱いこと弱いこと。全く力を出していないのに、適当に剣を振っただけで死んでいく。ニールがその嗅覚で敵を見つけ出し、上手い具合に引きつけて倒したり、罠を見つけては回避したりしているのも理由ではあるがこれは酷い。
「弱いんだね」
「いや、予想以上にお前さんがつええんだよ」
「いーや、弱いね」
てくてくと一定のペースを保ちながら歩き続ける。
「まぁここは十一階層からが本番だ。ここまでは危険度段階は2から3だが、これからは3の上と言われてる。二十階層に辿り着くまでに、実力第3等級の七人集合体が一週程度かかるみたいだな」
「ええ……」
敵の強さや罠の多さもあるんだろうけれど、つまりそれだけ広い階層が広がっていくと言うことだ。休憩もしなければいけないだろうから分からないでもないけど、往復だけで十四日。帰りは食料も回復薬も減っているだろうから下手をすればそれ以上か。
「確認されている最深部の四十二――三十五階層で最短はどうだったんだ?」
「あー。確か三連盟の連合体で、集合体が三組。実力第5等級が四人、実力第4等級が十一人、実力第3等級が六人。到着した時点で大凡三週だったかな。まだ本格的に探索されてない頃らしいがな。実力等級じゃなくて
「へぇ」
「到達した時点でもう皆へろへろで、しかも予定日数を超えてたから帰りの食料が厳しかったとかな。魔獣を狩りまくってなんとかしたらしいぜ」
「割ときついね」
「おう。だからここの魔窟は斡旋所が認定する
これを聞いて、今度時間がある時にでも行けるところまで行こうと心に決めた。これなら良い
あれ? ちょっと待てよ。
「ねぇ、今日の予定は?」
「ん? あー。そういや決めて無かったな。日帰りを予定してたんだけどついつい良いペースだったから」
「今日中に帰りたかったら?」
「今日中が何時によるかだが、日が暮れる二十時くらいに戻りたいなら、休み無しの少し早めのペースで十四か十五が限界だろうな」
「後二階層で帰ろう」
「あ? まぁ俺は良いけどよ。お前さんも初めてだしな」
他者が居る状態で、魂位を上昇させるペースも悪い。意味も無くこんなところで夜遅くまで遊ぶなんてまっぴらごめんだった。寝るならやっぱりベッドで寝たい。
「じゃあさっさと済ませよう」
「お? おう……」
罠がある筈の場所なのに平然と早足に歩き出した僕に、若干の呆れを含んだ返事をしながら、ニールも歩き出した。
※
「それじゃあ初めての魔窟探索卒業を祝して乾杯」
「乾杯」
木製のマグを合わせて一口呑む。味は雑だし安っぽいし、冷えているのが唯一の救い。なんて不味い飲み物だろうと思いながら、一気に飲み干す。僅かに腹の底が熱くなる感覚は嫌いでは無かった。
「お、良い飲みっぷりじゃねぇか。お姉さんエールお代わり」
要らん。そう言いたくなるのを堪える。こういう場所ではそう言うものなのだろうと学ぶ為だ。
周囲ではもっと良いペースでぐびぐびいっている奴らも居るし、飲まない方がおかしいのだろう。
「それで、どうだったよ。初めての探求はよ」
「んー。普通だったな」
「お前さん絶対でかい冒険者になるぜ。俺もお前も実力等級は3だ。それの一時協力者って言ったら普通は十階層に行くまでに一日二日は軽くかかるぜ」
「あれで?」
「今回は慣れてる上に、罠発見と解除が出来る俺が居たからこそ、ってのもあるが。お前さんが予想以上に強かったのも理由だな。お前本当に駆け出しか?」
既に三杯目に突入しているニールはいかにも楽しそうな目をして笑った。ちょっと探るような感じなのは僕の強さと、ジャルナールとの繋がりに不審を覚えたからだろうか。
僕は人差し指を立てた。
「例えば
そいつが魔術を魔術として認識している土地にやって来て、能力測定でとんでもない数値を出す。この土地では駆け出しの筈のそいつの力を欲する上位者から誘いが来るだろう。それに応じて正しい魔術の知識を得たらそいつはきっと大物の魔術士だろうよ」
「なぁるほどな」
ようは駆け出し冒険者、と言う呼び名なんて当てにならないと言うことだ。
そこからぐびぐびと飲み続けるニールに合わせて飲んでいくも、酔うということは無い。昨日の狩りの時に【
「そういや知ってるかジャスよ」
「何がよ」
真似して返すと、ニールはニンマリ笑った。
「最近よ、物の動きが活発ってことをよ」
「ああ、なんかちらっと耳にはしたな」
もう表に出てきているのか。それとも物の流れには冒険者たるもの敏感にならなければいけないのか。どちらにせよ、一冒険者が知っていると言うことは弟の初戦は間も無くと言うことだろう。なんとも微妙な心境だ。
「お前さん、参加するのか?」
「しないよ。興味無いし」
兵士と言う職業を別にした場合、戦争に向かう主な職業は傭兵だ。
だが事情があったり、金や名誉目当てで冒険者が参加することもある。上手くいけば貴族や騎士の目に止まることもあるし、そうすれば雇われることだって可能だ。感状の一つでも貰えたら斡旋所での評価にもなる。
まぁ人を殺す仕事をするのだから、上がるのは殆ど実力等級値だろうが。
「ニールは?」
「俺もいかねぇな。俺は生活の為に冒険者やってんだ。人を殺す為じゃねぇ」
「ま、そんなもんだよな」
そんな会話をする僕らとは違って、少し離れたところでは主要なところはぼかしてはいるものの、明らかに傭兵のような人が大金を稼ぐだどうのこうのと声高く笑い合っている。
「ありゃ傭兵業を主とした連盟、『グリーグ傭兵団』の奴らだな」
「へぇ。見た目荒っぽいけど、連盟ねぇ」
連盟は国認定の力を持つことを許された武装集団だ。盗賊や犯罪歴――まぁ実際は分からないだろうけど――がある奴、また評判が悪い奴が集まる場合、認定なんてされない。そう言う意味での疑問だ。
「ああ。あれでも
「表立って?」
「明らかな弱い者虐めならともかく、冒険者同士や傭兵同士の喧嘩は犯罪じゃないってことさ。周りに迷惑をかけなければな」
「ああ、なるほど」
流石強きを尊ぶお国柄。負ける方が悪いってことか。
「じゃあ例えば今ここで俺とあいつが殴りあったら?」
「斡旋所に迷惑がかかるから駄目だな」
「外なら?」
「一般人に迷惑がかからなければ問題無し」
「殺しても?」
「あー……お前さん、綺麗な顔に似合わず結構過激だな」
「見た目が綺麗な魔獣が優しい訳じゃないさ」
僕の返答が気に入ったのか、ニールは大きく笑って声を潜めた。
「死体をきちんと処理するなら、例え人目があろうと犯罪にはならねぇ」
その目は鋭く光っていた。これ、絶対に何人かやってるな、と思った。
「良い事聞いた。ここは奢りだ」
「ふぅー。ジャスお前話が分かるじゃねぇか。おねえさーん」
現金なことに、いきなりご機嫌になったニールは高い料理と、今度はワインまで頼んでわいわい騒ぎ始めた。
まぁ悪い気分じゃないし、せっかくなので色々と情報を引き出してやるとしようか。
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