第3話 王太子近衛隊

 次の日、朝食を終わらせてから書庫に行き、一つの書を持って早速自室に籠もって色々な数値を上昇させてみることにした。ベッドの上なら仮に何かあっても大丈夫だろう。


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カー=マイン・カラーレス・ジ・ガーランド・ル・カルロ=ジグル・アーレイ

種族  人族・人種

魂位  1

生命力 100/100

精神力 150/150

状態:(全ての能力等級値が低下している)

   (個体情報が秘匿された状態にある)


力    2-7(2-7/6-7)

速度   2-7(2-7/6-7)

頑強   2-7(2-7/6-7)

体力   2-7(2-7/6-7)

知力   3-7(3-7/6-7)

魔力   1-1(1-1/6-7)

精神耐性 6-7(6-7/6-7)

魔術耐性 6-7(6-7/6-7)


魔術属性

光    0-0(0/6-7)

闇    0-0(0/6-7)

火    0-0(0/6-7)

風    0-0(0/6-7)

金    0-0(0/6-7)

土    0-0(0/6-7)

水    0-0(0/6-7)


技能


攻撃系技能:

防御系技能:

補助系技能:

回復系技能:

属性系技能:

特殊系技能:

固有技能:(【全能力低下】【能力固定化】【個体情報隠蔽】【技能解除】)

種族技能:

血族技能:

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 一先ずは魔力と魔術属性以外の全てを変更してみた。

 書庫から持って来た本によるとそれぞれの能力等級には意味があるので、調整バランスを間違えるととんでもないことになると言う。


 力は身体の膂力。

 速度は身体の反射速度。

 頑強は身体の強化具合。

 体力は身体を動かす持久力。

 知力は物事への理解力、判断力、魔術操作の精緻さ。

 魔力は魂の波動の強さ、魔術の威力。

 精神耐性は苦痛などを受けた際の抵抗力。

 魔術耐性は魔術属性を受けた際の抵抗力。


 身体を鍛える上で気を付けないといけないのは、頑強の部分になる。これは身体の構成物質そのものを変化させた結果、どれだけ頑丈になっているかを表す等級だ。

 これが高くないと、例え力や速度、体力を上げたところでその能力値に身体そのものが付いてこず、下手をすれば自壊すると言う。


 なので僕は最初に頑強を上昇させた上で、他の身体に関する数値を上げた。試しに自分の腕を殴ってみたが、上昇させる前と後では痛みの度合いが違った。

 つまり頑強が上昇すれば上昇する程に、身体能力を上昇させても問題無いと言うことになる。


 もちろん一気に上昇させて自壊、なんてことになっては面白くないので頑強を優先して上げつつ、徐々に他の等級を上昇させていくつもりだった。


 逆に遠慮無く上昇させたのが精神耐性と魔術耐性だった。

 精神耐性は肉体的、精神的苦痛にどれだけ耐えられるかと言う精神的な耐久値を表すので、上昇させても問題無いと判断したからだ。

 魔術耐性もまた同様。魔術カラーやそれに類するものに対しての抵抗力が強くなるように変質するだけなので躊躇いは無かった。


 どうしても上昇させる気になれなかったのは魔力だ。

 魔力とは体内に巡る万物の素マナそのもの、広義な意味では人という存在そのものを指す。下手に増やすとどうなるか予測がつかなかったのだ。

 書庫から持って来た書によると、この魔力の暴走によって命を落とした人も少なくないとあるので、これだけは慎重に扱っていきたいと思う。


 さてここまで説明しておいてなんだけど、本来能力等級値はこうしてお手軽に上昇するものでは無い。

 本来は地道に訓練したり魂位上昇レベルアップすることによって上昇していく。頑強だって訓練していく内に力などと並行して上昇していくので、自然とバランスよく育つ。僕みたいな訳の分からない悩みなんて本来は起こらない。


 訓練によって、と言うのは技能にもまた当て嵌る。

 剣だって槍だって弓だって、魔術だってそうだ。使えば使う程にその能力等級は上昇していく。

 ようは能力値と言うものは与えられた結果では無く、自分で得た数値を示している訳だ。


 つまり、新しく技能を覚える為には絶対にその経験を得なければいけない。


「ふぅん」

「危険ですので、あまり近づかれませぬよう」

「分かっておる」


 そんな訳で、僕はこの屋敷の警護をしてくれている、王太子直属の近衛兵達の訓練場へと足を運んでいた。

 視線の向こうでは真剣に訓練に取り組む近衛兵達の姿がある。


 王太子直属の近衛兵といえば、次期国王の近衛兵にもなれる、国の騎士や兵士の中でも有数の精鋭集団だ。

 来歴もきちんとしており、国王より小さな領地や永代騎士爵号を下賜されている親を持つ者も居れば、領地を持たない貴族家の生まれの者だっている。それ以外でも王城内で国王の目に止まる程の腕を持っていたりと、国内でも有数の武力集団だ。


 だと言うのに、この騎士達は僕の近衛兵になった時点で栄達と言うものが死ぬまで与えられないことが運命づけられている。

 何せ王太子である筈の僕は軟禁されているし、次期国王になんてなれやしない。

 外に出て他国との戦や、危険な魔獣の大規模な討伐作戦にも参加出来ない。手柄を立てる機会の全てが失われているのだから、これを哀れと言わずして何と言う。


 僕は自分が悪いなんて思わない。幼い頃は申し訳無くも思ったこともある。

 けれど、申し訳無くなると言うことは自分の無能さを卑屈に受け止めること、そう理解してからはそんな思いも消え去ってしまった。

 腐っても王太子。無様な姿は認められないのだ。


 そんな彼らが真剣そのものに訓練をしている姿は、正直滑稽でしか無かった。


 ぼんやりその姿を見ていると、気づいたのか近衛兵の長である近衛隊隊長が近づいてきて僕の前で膝を着いた。

 ちなみに僕は彼の名前なんて覚えてない。


「これは王太子殿下、ご機嫌麗しく」

「うむ」


 横柄な態度で頷く。


「本日はどのようなご用件にてこちらへ」

「貴様らの訓練を見に来た。不服か?」

「滅相もございませぬ。普段の我らの訓練の成果をご覧頂ける光栄の機会を賜りまして感謝の極み」

「うむ、励め」

「有り難き幸せ」


 そんなやり取りをして隊長は訓練へと戻っていく。気づいていたのだろう騎士達もこちらに向かって膝を着いていたが、隊長が戻ると再び訓練を開始していた。


 僕は用意されたテーブルセットに座り、紅茶を飲みながらただひたすらにその訓練を見続けた。その途中、倒れる覚悟で知力の等級を4に上昇させた。今のままではここに来た意味が失くなると思ったから。


「王太子殿下、大丈夫でしょうか?」

「良い。構うな」

「ですが」


 唐突に襲ってきた頭痛に頭を押さえる僕に近寄ろうとするゼールを手であしらう。と言うかお前執事長で忙しいだろうに何でここに居るんだよ。


 結局僕はそれから一時間もしない内に部屋に戻ることになった。とうとう頭痛に我慢出来無くなったからだ。

 そのまま夕食も摂らず、沐浴もせずに次の日まで眠る羽目になってしまったけれど、僕としては十分満足していた。


 僕の脳裏にはしっかりと彼らの剣術、槍術の動きが染み込んでいる。知力第4等級程度ではまだ足りないところもあるかも知れないけれど、今はこれで良い。


 明日からがまた楽しみだ、なんて気絶する前に僕は一人ほくそ笑んでいた。

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