第4話 隔離

女は今年で83歳になる。


元々は、古くから地元にある建設会社の令嬢だともうが、そこの社員だった男と結婚してからだいぶ経つ。


女は宗教に入っている。

「世界一の宗教なのだ!」

と決まり文句のようにして、まずは知り合ったばかりの人間にいうが、当然敬遠されることになる。


しかし、箱入り娘のまま83まで歳をとった女にはそれがわからない。

自分の信心が足りないせいで、布教ができないのだと思っている。


周囲の家々の人々は、そんな女を内心嘲っている。


夫は、その女に合わせる形で、仕方なく同じ宗教に入信した。

当然2人の間に生まれた娘も入信した。


親子3人でその宗教の信者だと誇りを持って公言している。


女には裏があった、地域の古くからいる人々は知っているし、忘れない。


女が夫の家に嫁に入ったとき、姑がいた。

姑はたいそう気持ちの優しい人物で、夫も姑の気質を受け継いだ。

地域でも、姑を悪くいう人々はいなかった。


女は、甲斐甲斐しい嫁を演じた

「お義母さんは休んでいてください。私がやりますから。」

そう言って、家仕事を一手に引き受けた。


しかし、夫が仕事から帰ってくると

「お義母さんは何もしない、私だけ苦労している。」

と泣きついた。


女は姑をはめた。

姑はたいそう悲しい思いをしたらしい。

夫も内心では気づいていた。

地域の人々も、知っていた。「女は嘘をついている」と知っていた。

田舎の人々は忘れない。


女は、ニュースも、新聞も、テレビも見なかった。

見るのは自分の宗教の広報誌と、宗教の創始者が書いた書籍だけ。


当然、周囲とも話が合わなくなる。

現在の総理大審も知らなければ、地元で大火事が起こって、自分の家のすぐ隣にある屯所から消防車がけたたましいサイレンをあげて出動したことさえ、女は知らなかった。


女は現世にいながら罰を受けている。

女の世界は、女の中だけ、新しい情報も、世界の様子も、近くすることはできない。

この世にいながら、自分の意に反して、しかもそれを自覚することなく、世界から隔離されている女は、最近、白飯が真っ黒になるほど醤油をかけて、啜るように食べるようになった。


おむつもし忘れているのだろう、履物からは、アンモニア臭を漂わせながら、自分の家の庭を徘徊するようになった。



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混夢裸帰り @kyudo

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