第3話 巣立ち

怪物が出現したというニュースが流れてから3時間ほど経った。

すでにここから四キロほど離れた盛岡駅から黒煙が上がっている。


尻尾だろうか…触手だろうか…ヌメヌメとした長いものが天に伸びてぐにゃりと動いた。


怪物の進路は僕の家の方らしい。


ゆっくりゆっくりこっちに進んでいる。


直感で思った。

1時間かからないだろうと…


貴重品と身支度をして早く逃げないと…

父さん、早く支度をしよう

「するからするから、でもこのトラクターの整備が終わってからな」


母さん、逃げないと

「でも今からお客さんが来るからお菓子の準備をしないと」


おばあちゃん、支度をしようよ

「ビニールハウスの苗っこ、うま〜ぐ育ってらよぉ」


なんでみんなこんなに呑気なんだ?

怪獣の姿がはっきりと見えた、近い…

ああ、気持ち悪いな、目が何個あるんだ?8…9…ああ気持ち悪い

はっきりとこっちに向かってくる。


ん?出汁の匂い…まさか料理してるのかよ


案の定、父と母と祖母は食卓でご飯を食べていた。


ねえ、あのさ、そこまで来てるんだよ、早く逃げようよ!

「ちょっとテレビつけてくれ、連ドラ始まるから」


盛岡駅燃えちゃったんだよ!?

俺、財布とスマホ持ったから、みんなも財布とスマホ持って家の外でよう?

一回遠くに行こう?

「お隣さんから頂いたこのフキ、美味しいわよ?早く食べなさいな」


父さん、母さん、何いってんだマジで、怒るぞ…

おばあちゃん、わかる?怪物、怪物がね?俺の家の方に来てるの?

「うんうん、あま〜いかぼちゃだよ、フキもやっこくてうめぇ、あっついご飯どうぞどうぞ」


怪物の足音がそばまできている、俺はポケットの中に手を入れて、車のキーがちゃんとあるかを確認した。


やらなければいけないことがある。


・・今までありがとうございました・・


俺は3人に向かって姿勢を正し、礼をした。


3人も、食卓から立ち上がり礼をした。


家の外に出た。


車のエンジンをかけて、発車してから数秒後


後ろで家が怪物に踏み潰される音が響いた。


振り返ようという気すら起きなかった。

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