第2話 合掌

 5~6歳頃の自分に戻ったようだった。

 愛犬のマルがまだ生きていて……春だろうか……眩しくて温かくて、家の中の風通しもよかった。

 母がニコニコ笑っていた。昼ご飯の時間らしい。

 私はマルと遊び疲れ、母の膝の上に座ってご飯を食べていた。大好物の母のチャーハンだ。

 母が慣れた手つきで私の口にスプーンでチャーハンを運んでくる。

 マルは母の足下に座り、尻尾を振りながら穏やかな目で私を見ていた。

 私は心から安心して、母の膝の上でチャーハンを咀嚼する。


~お昼ご飯にお母さんにマル、この時間がずっと続いたら良いのにな~


 私はそう呟いた。

 すると母は私の頭を優しく撫でてくれて、マルが私に向かって、言葉を話した


『 ずっと大事だよ 』

 


 目が覚めた。


 部屋は暗い。


 35歳……母もマルも、もういない……

 

 正座して、両手を合わせて拝んだ。

 泣くのを堪えようとして失敗した。


 しばらく拝んだ。

 

 

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る