魂燃

(黒い炎は魂を燃やす。肉体は燃えないのだ)

 百々子の頭の中で誰かの声が聞こえる。


(魂のない百々子には、その魔法は効かない)

 この声は、メラニー?


(いいか? 目の前にいるのは魔族の王だ。しかし実体はない)

 どうゆうこと?


(魔王は百々子を殺しに来た。後に百々子に殺されるのが分かっているからだ)

 私が? 魔王を?


(そうだ。百々子、君は魔王の天敵としてこっちの世界に転生してきたんだ)

 そんなの嫌よ!


(百々子は伝説の勇者の生まれ変わりなんだよ。問題は生まれ変わりが、そっちの世界で誕生してしまったことだ)

 さっきから、そっちの世界とかこっちの世界とか、どうゆうことなのよ!?


(百々子がいるのが現世界だ。いわゆる実際に存在している世界だ。こっちは幻想界だ。実在しない、バーチャルの世界だ)

 バーチャル?


(幻想界は現世界の人間が造り出した世界だ。しかし制作者が死んでしまい、放置されたこの世界は独自に進化していき、カオスとなった。その中で産まれたのが、今目の前にいる女、魔王だ)

 てゆうか、そんな話してる場合じゃないわよ! 私、いま殺されそうなの!


(大丈夫だ。百々子の実体は幻想界にある。その身体は、俺がつくり出したコピーだ)

 私はどうすればいいの!?


(さっきも言ったがその魔王には実体がない。そっちもコピーなんだ。どこかに本体がいる。見つけてくれ)

 この家の中にいるの!?


(いや、いない)

 は?


(現世界のどこかにいる)

 それって地球のどこかってこと?


(そうだ)

 無理無理! 無理よそんなの! 見つかるわけないじゃない!


(そこを何とか)

 てゆうか国王との謁見はどうなったの!?


(あれは嘘だ。これが目的だった。ごめん)

 騙したのね!


(いいか、この状況、魔王が地球に転生されてしまったってことだ。元々バーチャルだったものが、現実世界に飛び出してきたんだぞ?)

 そう聞くと何かヤバそうね。


(例えばあのゲームのあのモンスターが、現実世界に現れてしまったら、って考えたみろ)

 人類全滅ね。


(今そうゆう状況なんだよ! 地球を救ってくれ!)

 でもどうやって? 私はただの女子高生ですけど!?


(さっき俺がコソッと、百々子にある能力を授けた)

 キモっ!


(くらった魔法をコピーする能力だ。だからさっきの黒い炎、魂燃を使えるようになっているはずだ)

 魂燃(こんねん)……。変な名前ね……。


(それは魂を燃やす、一撃必殺の魔法だ。チート級の最強魔法だ)

 ラッキー!


(ただ消費MPが大きすぎて足りない)

 え?


(必要MPは約300ってとこだ。現時点での百々子の所有MPは8だ)

 はは、はち!?


(レベルを上げるか、どっかで消費MP8以下の弱い魔法をくらってくれ)

 現世界でそんなこと可能なの?


(ああ、もうすでに地球は魔王の手に落ちた。外は魔物だらけだろう)

 ええ?


 窓の外を見ると、スライムみたいのやらゴブリンみたいのやらがウロウロしている。

(では武運を祈る!)

 クソゲーにしやがって! 百々子はヤケクソだった。


「こうなったらもう、やってやんよ! 魔王ぶち殺したら、次はお前だメラニー!」

 外で雷が落ちた。まるで百々子の怒りに呼応するように、何度も何度も落ちるのだった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

趣味で瞑想してたら異世界にワープしちゃって帰ってこれません… 仲蔵 @nakazou0526

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ