第5話 一寸光陰 後編



今日がついに「Earth」初のLIVEの日。


絶対成功させるぞと気合を入れている、ひーちゃん。


部屋のすみでガタガタに震えてしまっている睦美。

自分たちも相当緊張しているだろうに、彼女を高口、植田さん、武田、山本のお姉さんの面々が囲んで声を掛けてあげている。


マネージャーの方から「そろそろ、開園でーす!準備願いします!」の声に一段と緊張感が高まる。


円陣をくみ、先日キャプテンに任命された奈津が発破をかける。


「みんな。初めてのLIVEで緊張してるかもしれないけど「Earth」ここにありと

ファンの方々に見せちゅけましょう!」


「大事なとこで噛むんやないよ~」


「ごーめん!じゃあ、気を取り直して頑張っていきましょ!!」


「「おおおおおぉぉぉ!」」


ステージ傍に移動し出番を待つ。


「加耶。大丈夫?」


「だ、大丈夫ですっ!」


気丈に振舞っていても手が震えている。

こういう時はなんて言えばいいんだろう。



みさとだったらなぁ。


でも口下手な私にそんな技術はない。咄嗟に手を握ってしまった。


「加耶。一人じゃない、みんないるから。」


「景さん・・・・」


「どうしたの?」


「痛いです」


「ご、ごめん」

慌てて握っていた手を離す。

なんてかっこ悪いんだろう。本番前だというのに恥ずかしさで汗をかいてきた。


「でも、ありがとうございます。元気出ました」


気遣われたのだろうか、2歳年下の子の笑顔に少し救われた。



――「皆さん、新生アイドルグループ「Earth」の登場です!」


司会者の声に合わせ20人が元気よく飛び出す。



だが、私たちの意気込みは簡単に崩れ去った。


私たちも最初から満員だとは思ってもいなかった。

半分も入っててくれれば嬉しい。そんな考えだった。


しかし、現実は非常である。明らかに空席が目立つ。

多めに見ても3割も埋まっていない。


私たちの心のどこかに大人気グループのRisEのライバルグループとしてそこそこ注目されていると、甘い考えを持っていた。


それがどうだ。目の前に広がる現状に打ちのめされていた。


悔しい・・・・。


他のメンバーも明らかに動揺している。比較的、年齢の若いメンバーにはそれが顕著に表れていた。

これはまずい。ここで崩れてしまうと今後の活動にも必ず響いてくる。


キャプテンの奈津に目配せをすると

奈津も気づいていたようで頷く。


「皆さん!初めまして!!今日はご来場いただきありがとうございます!


私たち・・・・せーのっ」


キャプテンの声に落ち着きを取り戻したメンバ―たちが息を合わせる


「「「「Earthです」」」」


「今日は皆さんに私たちのことを知ってもらえるように精一杯頑張ります!


では、自己紹介から始めていきたいと思います!


まず初めは私から行きたいと思います


「Earth」のキャプテン関本 奈津せきもと なつです! なっつんって呼んでください!


よろしくお願いします!!


では、次のメンバーどうぞー!」


次々にメンバーが自己紹介していく


「はい、皆ありがとー


皆さんー?20人の顔と名前覚えてくれましたかー?

それでは、曲の方に移りたいと思いまーす!


まだ私たちには曲がないので偉大な先輩 RisEさんの曲をお借りしたいと思います!

それでは聞いてくださいRisEさんで「「ランナーズハイ」」  」


曲がかかるとそれぞれの位置につく。

今回はみさとを暫定センターに置いた前から5-6-9のフォーメーション。


私はみさとの斜め後ろ。



会場の明かりが全てステージに浴びせられる


数は少ないとはいえ、初めて観客の目の前でパフォーマンスするのだ。緊張しないわけがない。

だけど、何故だろう早く曲よ始まれ、私を輝かせろ。

私の頭を通してではなく、身体がそう叫んでいる。


周りの空気感とは裏腹に私のテンションは最高潮に達していた。


イントロが流れ始める。

いつものレッスン教室で使われる小さなスピーカーから発せられる音とは比べものにならない振動が空気を叩き、肌を刺激する。

眩いばかりのスポットライトは緊張、不安、理性、その他の雑念を晴らしていく。



「ランナーズハイ」という曲はその名の通りアップテンポな曲調であり

歌って、踊って、動き回る。さらにメンバーとの絡みが多いのもこの曲の特徴で

一つ間違えるとバラバラになってしまう難易度の高い曲でもある。


だが、それは10万人から選ばれた20人。

心配したようなことは起きなかった。


その後もLIVEは進み、約一時間弱で閉演となった。


結果からいうとパフォーマンスは大成功だったと言えるだろう。


みさとの元来もち合わせている太陽のような明るさ


理生の安定したダンス


上杉の圧倒的オーラ


鷲頭のキレのあるダンスの中に感じる上品さ


他のメンバーもしっかりと持ち味を生かせていた。


しかし、グループ全体としてはどうだっただろう。


LIVE終了後、レッスン室で反省会が行われた。


「えーと・・・ みんなお疲れ様」

労う、キャプテンの声に今日の悔しさが見て取れる。


キャプテンだけではない、メンバー全員が悔しさを浮かべている。


ダンスを失敗したとか、歌詞を間違えたとかの直接的要因ではない。

ただ、お客さんがいなかった。知名度が圧倒的に無かった。


どうしようもない現実が無言の室内に表れていた。





重々しくなった空気にいたたまれなくなった美が バ!っと立ち上がり

「み、みんな!元気出していこっ! ね?


まださ、一番最初のLIVEなんだし仕方ないよー


次、頑張ろう!」


「なにを頑張ればいいんだろう・・・」

励ましの言葉もむなしく、未有が不安をこぼしている。


「そ、それは・・・・」

なにも言えなくなった美は座り込む。


「確かに、何を頑張るか明確にしとかないと次も同じになるかもね」


「でも、どうすればいいんだろう・・」


再び、室内は静寂に包まれる。


「あ、あの・・・」


皆の前で発言するには苦手だ。 

  

   でも――。


「私、気づいたことがある。」


19人が一斉にこちらに集中する。

ここで怯んではいけない。


「私、今日のフォーメーションはみんなを見渡せる位置にいたんだけど


私たちは確かに完璧にできていたと思う。でもそれってRisEのコピーユニットとなにが違うんだろう。


でも、皆のいいとこはちゃんと出せていたとは思う。

けど、グールプとしてはいまいちだった。


えーと、だから、あの・・・上手く言えないけど


その、「Earth」の良さって何だろう。私たちにしか出来ないことって何だろう。


皆、ちゃんと凄い。その凄さが20人分合わさればきっと世の中に知って貰えるじゃないかな。


説明、下手でごめんなさい。」


「景ちゃん、そんなところまで見てたんだ!私、なんて失敗しなことで頭いっぱいだったよ!」


「私もです! 景さん凄い!」


「志賀さんの言う通りかも。みんなでも一回ちゃんと話合おう」


どうやら、ちゃんと伝わったみたいだ。


話合いは時を重ねるごとに白熱していった―――。





「みんな?これでいい?」


奈津の声に強く頷いた。


私たちの、私たちだけの。もう一つのコンセプト。


『黒く、この世界を塗りつぶす』



このアイドルらしからぬコンセプト。私たち20人それぞれの色。


ただ、重ねただけでは七色の虹の二番煎じ。それじゃ駄目だ。

激しくかき混ぜ合い、やがて黒く染まっていく。


その黒は何者にも染まらない。すべての色より、美しくこの世界を染め上げる。

そんな想いを込めて付けた。


私たち「Earth」はここから本当の意味でスタートした。



――――――――――――――――――――――――――――――――――――


「あ、もしもし。日笠さん。

おっしゃっていた通りにメンバーたちは自分たちの進むべき道が見えたようです。


はい。あー、はい、分かりました。でも、本当によかったんですか?マスコミにも気づかれないようにLIVEしたり、お客と偽って関係者のみを入れたり


普通にお客さん入れたらあんな劇場すぐに埋まったと思いますけど


あ、いえ!ちょっと不思議に思っただけです。では、例の件、準備進めておきます。


はい。では、失礼します。」




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カゲが照らした道 天野 鰯 @4iwasi4

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