第43話 これからの俺達は
全世界に向けた配信は、成功だったと言えるだろう。
若い世代に向けていたのと、同性愛に関して寛容な対応をとっている国にも配信されたことで、一気に世論は俺達に同情的になったのだ。
今まで否定的だった人も、手のひらを返したように肯定に周り、SNSでは同性愛に関する運動の輪が広がった。
これには栫井家も御手洗家も認めざるを得なくなってしまった。
ただでさえ世間の目を気にする人達なのに、ここで否定的な態度をとったら、どんなバッシングを受けるのか想像することが出来たようだ。
今帰れば許して家の敷居を跨がせてやる。
そんな上から目線の和解の手紙を送ってきたので、透真と一緒に燃やしておいた。
こっちは別に縁を切ったままでも構わないから、向こうがそれなりの態度をとるまでは、絶対にこちらから折れることは無い。
それを早めに分かってほしいものだが、しばらくは無理かもしれない。
今の上層部は頭のかたい人ばかりだ。
もう少し視野の広い人間に任せた方が、絶対に会社のためになる。
まあ、身分を捨てた俺が言うことではないかもしれないが。
現在、俺と透真、そして守は会社を起こそうと準備を進めている真っ最中だ。
元々能力が高いから、きっと上手くいくだろう。
俺は2人のサポートとして、裏方を担っていくつもりだ。2人のために一生を捧げてもいい覚悟である。
それをそのまま伝えたら、透真の機嫌が悪くなったし、守は大爆笑していた。
後で一生を捧げるのは俺だけにしろと、透真が言ってきた。
あれはあくまでビジネスとしてだと何度も説明し、機嫌を直してもらうのに骨が折れた。
透真に対し、最初は良い感情を抱いていなかった守は、俺にべったりな彼の姿を見て思い直したらしい。
「あれはポンコツだな。もっと早く分かっていれば、すぐに目を覚まさせてやったのに」
透真は決してポンコツではない。
そう主張すれば、ここにもポンコツがいたんだったと、可哀想なものを見るような視線を向けられた。
妹の件について言っているのだと分かり、俺は何も言えなかった。
むしろ守には色々と迷惑をかけてしまったので、何をされても受け入れるしかない。
透真に至っては、一発殴られていた。
今まで俺を傷つけていた分だと言われたら、透真は大人しく殴られていて、俺も止めることは出来なかった。
仲直りするまでに時間はかかったが、それでも今ではいい関係性になっている。
たまに酒を酌み交わすこともあり、そういう時は無礼講なんて言葉が可愛いものだ。
あんな透真の姿、見ていられなかった。新たな一面ともいえるかもしれないけど。
彼は本当に柔らかくなった。
御手洗家から離れて、特にそれが顕著になっている。
表情も柔らかくなり、それに俺に対してとても、恥ずかしいぐらいにとても優しくなった。
甘すぎて、どんな顔をしていいか分からない時がある。
砂糖漬けにして食べられてしまうのではないか、そう思ってしまうぐらい甘やかされている。
それが嫌というわけではないが、恥ずかしくて逃げ出したくなってしまう。
許してもらえず、更に甘やかされるから大人しく時間が過ぎるのを待っている。
翌日腰をさすっていると、守ににやにやされるので、そういう時は八つ当たりする。
絶対にバレているから、恥ずかしくて恥ずかしくてたまらなかった。
配信をしたから、俺と透真は有名人レベルで知られている。
だから変装しないと、普通にバレてしまうのだ。
今はまだ騒がれていいことが無いので、極力家から出ないようにして、買い物はネットで済ませていた。
俺と透真はあのマンションではなく、俺が前に逃げた先に拠点を置いている。
さとさんに戻ってきたことを伝えると、あんな風な別れになってしまったのに歓迎してくれた。
透真が信頼を置ける人が代わりにいてくれたおかげで、受け入れられやすい状況になっていたようだ。
俺達はここにネット回線やインフラの整備を行い、会社を作る準備を進めている。
それ以外の時は畑の世話をしたり、近所に越してきた守と村の手伝いをしたりと結構忙しい。
そういえば少し前に栄太が遊びに来た時、透真とバチバチしていた。
栄太は俺を雇うといった話をまだ覚えていてくれたらしく、それを会った時に伝えたせいで、彼の機嫌が悪くなった。
相手は子供であるのに関わらず、容赦なく論破していたので、最後には栄太が涙目になってしまった。
さすがにやりすぎだったから、俺は透真の頭を強く殴っておいた。
いつかはこんなことを言ったのを忘れて、思い出になるのだから本気で怒る必要はない。
栄太は本気だと言って俺の手を握った。
その手すらも引きはがし、守にも大人げないと笑われていた。
透真は、まだ少しだけ俺がいつかいなくなるんじゃないかと心配している。
そんなことは無いと何度も伝えても、夜になって朝起きたら俺がいなくなるんじゃないかと、不安で眠れなくなる時があるようだ。
だから毎日抱きしめられて、一緒に寝ている。
彼の不安が、いつか晴れればいい。
一生ついていくと決めているのだから、その内分かってくれるだろう。
嫌われていると思っていた時でさえ、彼の傍に一生いると決めていた。
これからも守って、いや守り合って生きていくのだ。
それが俺の幸せである。
たとえあなたが俺を嫌いでも 瀬川 @segawa08
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