第42話 世間に向けて
「こんにちは。俺の名前は栫井真と申します」
「こんにちは。御手洗透真だ」
「俺達のことは最近ニュースで騒がれているから、顔だけでも見たことがあるという人は多いでしょう」
「一応、一般人のはずである真の顔までさらされている。プライバシーも何も無いな」
「透真。今はそれを言うべきではないです。あまり長い時間話しているのも退屈にさせてしまいますから、本題に入りましょう」
「それもそうだな。まず何から話すか……俺達のことを知らない人のために、軽く説明をしよう。俺とここにいる真は、御手洗家が経営している会社で働いていた」
「俺は秘書でしたが、透真様……透真は次期社長という立場です」
「今はもう違うがな。どうしてなのかというと、俺と真が恋人であるという情報が世間に流れ、面白おかしく騒がれたからだ」
「悲しいことですが、世間では同性愛に対して否定的な意見を持つ方がいます。今回、当事者になり身に染みるほど分かりました。……テレビで騒いでいる方の中には、とりあえず蹴落としておきたいと思っている方もいらっしゃるようですが」
「いつの世の中も人の足を引っ張る人はいるな。悪いことをしているわけじゃないのに、どうして騒がれて否定されて、まるで犯罪者のような扱いをされなきゃいけないんだ。好きになった人と一緒にいる。ただ、それだけのことだろう」
「俺もその意見には賛成です。ここ数日、俺達のことを取り上げるニュースを見ていましたが、捏造されている部分もありましたし、話を大きくしている部分もありました。俺がお金目当てで透真をたぶらかしたとか、ライバル会社のスパイだったとか、ありもしないことを事実かのように言われました」
「そんなことありえるはずがない。俺の自慢の秘書だ。知りもしないくせに好き勝手に言いやがって。後で全部チェックしておくからな。酷いのは覚悟しておけ」
「透真、脅しはよくありませんよ。申し訳ありませんでした。話がそれてしまいましたね。今回の報道を受けて、俺達が主張したいのは一つだけです。……俺達はたくさん悩んだ結果、一緒にいることを選びました。ですから、俺達のことをそっとしておいてください。お願いいたします」
「俺からも頼む。俺達は好きな人と一緒にいるだけで、何も悪いことをしているつもりはない。絶対に別れないから、そちらが俺達のことを受け入れてくれ」
「もう少し柔らかい言い方をしてください。俺と透真のように悩んでいる人達はたくさんいるでしょう。そして今回の報道で、更に気持ちを押しとどめてしまった人もいるはずです。ですが隠れないでください。悪いことをしているわけではないんです。好きな人と一緒にいる。それの何が悪いんですか? もっと胸を張って生きていきましょう」
「まあ認められなくても、絶対に離れることは無い。俺は真のことを愛しているからな」
「ちょっ、透真!? 何を?」
「当たり前のことを言っただけだろ。何が悪いんだ?」
「今、言うことじゃないでしょう! 配信終わりにします! 失礼しました!」
台本も用意していたのだが、透真のアドリブのせいで最後はよく分からない終わり方になってしまった。
俺はカメラを止めると、ゆっくりと彼の方を向いた。
「透真? 一体、何を言っているんですか?」
「何をって。愛していると言っただけだ。それの何が悪い?」
「状況が悪いんですよ!」
絶対にわざとだ。
それが分かっているからこそ俺は怒っている。
「いいだろう。仲が良いところを見せつけていれば、くだらないことをいう奴も減る」
「ですが……!」
「なんだよ。嫌だったのか」
「……嫌じゃないから困るんです……」
どこまで、誰が視聴していたのかは分からないけど、あんなバカップルな場面を見られていたかと思うと恥ずかしい。
彼の服の裾を握って、顔を真っ赤にさせれば、勢いよく抱きしめられた。
「またそんな可愛いことを言って、天然なのが恐ろしい。牽制の意味も込めていたんだが、やっておいて正解だったな」
「透真はおかしいです。もう……」
「嬉しいくせにな。まあどちらにせよ、後は待つだけだな」
「……はい。どうなるでしょうか」
「それは神のみぞ知るというやつだ」
素っ気ない言葉だが、彼にも分からないのだから答えを聞いた俺が悪い。
「上手くいけばいいですね」
「……俺はどちらでも構わない。真が一緒にいてくれるんならな」
「俺だってそうですから。どんな結果になろうと、あなたにずっとついていきます」
「それなら心配していないで待っていられるだろう。そんな不安そうな顔じゃなく、楽しい時間を過ごせば、あっという間に終わる」
「何考えてんですか。変態」
「別に俺は何も言っていないけどな。何を想像したのかな? 真は」
「う、うるさい!」
からかうように顔を近づけてくる透真に、俺は恥ずかしさを隠すように叫んだ。
あと少ししたら、先ほど行った全世界に向けての配信の結果が分かる。
あの行動が吉と出るか凶と出るか。
それを待つのが怖くて、結局俺は透真の胸に寄りかかった。
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