&α 彼が死んだ後で
いつもの、喫茶店。
あの日から。
3か月ぶりの、いつもの席。おたがいに、仕事が忙しくて。会うことができなかった。
「遅れてごめんなさい」
メイ。スーツに、綺麗なかんざしの髪留め。
「綺麗な髪飾り」
「この前もらったの。私にお熱の外国のかたから」
「殺しちゃだめよ?」
「善処するわ」
机の上。ブラックコーヒーがひとつ。
「あれ。七何。コーヒー飲んでる」
「うん。飲めるようになったの。もう、これが。彼の味でいいかなって」
「成長したのね」
「成長してないわよ。わたしは。あの日から。わたし。あの日のキスが、忘れられなくて」
「私もよ。あんなに、切なくて、後の引くキスはなかった」
「やっぱり」
「やっぱり」
ふたり。言葉が被るのにも、慣れた。3ヶ月ぶりなのに。まるで、数年間連れ添ったような、雰囲気。
「わたしたち」
「恋人みたい。いいえ。恋人同士ね」
「そうかも」
ゆっくりと。
顔を近づけて。
キスをしようとしたところで、扉の音。店員が、ブラックコーヒーを運んでくる。
気にせず、キスする。
店員。
コーヒーカップが床に落ちて割れる、派手な音。
「あ、あらあら」
「あなたには刺激が強すぎたかしら」
へたりこんだ店員を。
立たせて、席に座らせる。
「じゃあ、まずはわたしから」
七何。普通の格好。普通の化粧。
「あなたの経歴、死因、葬儀や名義抹消等々。全て遺漏なく終了しました。これであなたは、名実ともに死んだわ」
目の前の、彼に。淡々と、話しかける。
「だから、もう。無理しなくていいのよ。普通に生きて、普通の人生が。あなたを待ってるわ」
席が入れ替わって。
「次は私が」
メイ。スーツに、綺麗なかんざしの髪留め。
「あなたのご執心だった、街を脅かす外資勢力」
にこっと笑う。
「殺しちゃった。ちょっとつついたら、脱税まみれだったわ。今頃、本国で議会招致されてるわね」
そして、ふたりで。
彼の隣に座って。
交互に、話しかける。
「あなたには、あなたの人生がある」
「わたしたちのことは、気にしないでね」
「見てたでしょ。私たち、ふたり」
「そういう、関係だから」
「選ぶのは、あなたよ」
「わたしたち二人から選ぶんじゃなくて」
「私たちふたり両方か」
「まったく別な誰かか。その二択よ」
「どうする?」
答えた、彼の頬に。
ふたりで、キス。
彼が死ぬまで (※えっち注意) 春嵐 @aiot3110
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