7 無事に完売できたしね


「雨を降らせる鬼か。

まさか、本当にいるなんて思わなかったな」


休憩から戻ってきた二人に先ほどのことを聞いてもらっていた。

雨はフェスティバル終了まで降り続いていたから、彼もここにいたのだろう。


「ここに来て雨が降ったってことは、雷様か何かなんだよな、多分。

雨が降った時は、本当に何も感じなかったんだけどな」


「ワシらも特に違和感はなかったように思うが……あの吸血鬼一家は何かを感じ取って、追ってきたんじゃろ? 何者だったんじゃ、結局」


そういえば、名前も聞いていなかった。

別の鬼を探していたみたいだったし、ブラディノフを誰かと勘違いしていた。

何か事情を抱えていたのはまちがいない。


「確か、風紋って町から来たって言ってたな」


「風紋か。そらまたずいぶん遠くから来たもんだの」


「知ってるの?」


「あそこの町は、退魔師の代わりに鬼が異種族共を取り仕切ってるという話での。

多分、そこの一員じゃと思うぞ」


異種族が専門家として取り締まるのか。彼のイメージが一気に変わった。

ブラディノフと違った空気を持っていたのも、そのことが影響しているのだろうか。


「頼もしいことに変わりはないけど、何かヤクザみたいだな」


「あの吸血鬼一家と大して変わらんと思うがな。

実際、喧嘩する寸前だったんじゃろ?」


雨を呼んだらしい青い鬼と吸血鬼がにらみあっていたときは、ずっとハラハラしていた。いつ退魔師が飛んでくるか分からなかったからだ。

途中で止めてくれたときは、どれほど助かったと思ったか。


「同じ鬼同士、仲良くできるものでもないんだね」


「本来なら、争うことはないはずなんじゃがな。

どちらかというと、その雷様が西洋のバケモンに何かされたのじゃろ。

未だに根に持っておるのではないか?」


「確か、襲われたとか何とか言っていたな」


「多分、それが原因じゃな。

しかし、あそこでそんな物騒なことあったかのう……それなりに大きい組だと聞いたんじゃが」


ブラディノフが自分たちと関係ないと言うまで、表情が張り詰めていた。

それが互いの警戒心を強める結果になったのだろう。

あの様子だとかなりの大ごとだったらしいし、相手を相当恨んでいるようだった。


「まあ、何もなかったんじゃし、問題もなかろ」


「カレーも無事に完売できたしね」


三人でハイタッチをする。その功績は本当に大きかった。

あの雨がなかったら、どうなっていたことか。

正直、本当に助かった。


「風紋か。僕も行ったことないんだよね。

今度行ってみる?」


「そんな近いのか?」


「新幹線を使えば、すぐだと思う」


「どのあたりにいるかも聞いてないんだけどな」


「鬼たちはもう使われていない神社を拠点に活動しているらしい。

探せばすぐに分かると思うぞい」


廃墟ならぬ廃神社か。そのような場所を拠点に選ぶのも、鬼らしいのかもしれない。

降り続く雨粒を掴むように、イメージが変わっていくのだった。

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激辛カレーはドラゴンも食わない 長月瓦礫 @debrisbottle00

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