6 何の話だ?


角が生えているのもあるかもしれないが、かなり身長が高い。

威圧的に感じないのは、彼が明るい性格をしているからだろうか。


「俺は風紋って町に住んでるんだけどさ。

ここは物騒な話ばっかり聞くけど、悪くないな」


風紋か、聞いたことのない場所だな。

潮煙のような場所は日本各地に分布しているのだろうか。


ただ、異種族と人間たちが住む町でもあるから、他の場所よりどうしても治安は悪くなってしまう。

だからこそ、喧嘩に割って入ってくれた退魔師のような専門家が必要になる。


「ま、火事と喧嘩は江戸の華ってなもんだ。

他の連中も楽しそうにしてるみたいでよかったよ」


テントのほうを見て、穏やかに笑っていた。


「なあ、兄ちゃん。

この町で俺と似たような奴を見かけなかったか?

着物を着ててさ、頭から角が生えてる奴」


「それは何の話だ?」


鬼の横に吸血鬼の夫婦が戻って来ていた。

セシリアは呆れたようにため息をついていた。


「私がこの町にいた間、そのような者たちは見かけなかったがな」


「俺はこっちの兄ちゃんに聞いてるんだが……潮煙にも色んな奴がいるんだな。

ずいぶん前にさ、アンタと似たような奴に襲われたんだけど知り合いかい?

髪の長い金髪の男なんだけどさ」


「それこそ何の話だ。私にそのような知り合いはいない」


鬼同士で視線がぶつかり合う。

身長差もあるからか、余計に激しく火花を散らしている。


「いい加減にしてくれないかしら。

さっき言われたばかりでしょう、喧嘩するなら他でやれって」


今度は彼女が割って入った。

さすがに見苦しい真似を何度も見せたくはないらしい。


「ごめんなさいね、本当に。

いい加減、本題に入りましょうか」


「知り合いなのか?」


「いや、そうではない。

雨雲を連れてきた者を探していたんだ」


「ということは、この人がそうなのね?

一体、どういう魔法を使ったのかしら?」


青鬼は否定するでもなく、笑うだけだった。

京也はただ困惑していた。


「へえ、よく分かったな。

さすがは悪魔ってところかね」


「先ほどから勘違いしているようだが、私たちは吸血鬼だ。

悪魔と同じ生物ではないよ」


「そうだったのか、それは悪かったな」


「いや、私たちも態度が悪かったな。

誤解させてすまなかった」


とりあえず、騒ぎにならなさそうでよかった。

事情はさっぱり分からないが、場が落ち着いただけ良しとするか。


「それでは、また機会があればこの町に来る」


「それじゃあね」


二人は手を上げて立ち去った。

この雨に異変を感じ、探っていたということだろうか。


「兄ちゃんはこの雨に何も感じなかったのか?」


「いえ、俺は特に何も」


「そっか。俺も邪魔して悪かった。

その一番辛そうなやつ、買っていくよ」


「本当に辛いですけど、大丈夫ですか?」


「俺ひとりで食べるわけじゃないから、多分平気だよ」


複数人で買っていった客もいたし、問題はないだろう。

青鬼の姿を見送りながら、小さくガッツポーズをした。

これでどうにか激辛カレーは売り切れた。夕飯になることはなさそうだ。

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