5 人間じゃないな?
穏やかに晴れていた空は徐々に雲を増して、空は鈍色に覆われる。
あまりにも流れが速かったから、誰も気づけなかった。
大粒の雨が音を立てて降り始める。
空気の流れも一気に変わった。冷たい空気が公園に流れ込む。
「あら、すごい降って来たわね」
セシリアは折り畳み傘を開く。
ブラディノフも中に入る。
夫婦喧嘩も一通り終え、今は何事もなかったようにあたりの店を回っていた。
人々も同じように傘を開いたり、近くの店やテントへ駈け込んだり、あわただしく動いていた。
「天気予報だとそんなこと言ってなかったのに。
これがゲリラ豪雨って奴かしらね」
スコールは珍しい物でもなくなったが、いつ来るか分からないのが厄介なところだ。
特にこの季節は突然の雨が多いと聞いたから、傘を持ってきておいた。
ブラディノフは落ち着きなく、あたりをきょろきょろと見まわしている。
「どうしたの? 何かいた?」
「分からない。
ただ、ここに来た何者かが雨を呼んだのはまちがいなさそうだ」
「誰かがここで雨を降らしてるの?」
この豪雨は自然的に発生したものではなく、誰かが故意に降らせた。
しかし、今のところ魔法を使ったような感覚はない。
雨で感覚が鈍っているのもあるが、本当に何も感じない。
「一旦、竜の子のところに戻る?」
「そうだな。そうしたほうがいいかもしれない」
急ぎ足の彼を濡らさないように彼女もついて歩いた。
突然の大雨のおかげで勇気が出たのか、近くにある休憩スペースで激辛カレーに挑戦している人が何人もいた。
この雨が降り続いてくれれば、完売できそうな勢いだ。
もうひとりくらい、誰か来てくれないかな。
ルードラたちは休憩に出ているし、今のところは本当に平和だ。
「んー……?」
京也のことをずっと見ているこの男をのぞけばの話だ。
顎に手を当て、何度も不思議そうに首をかしげている。
額から一本の角をはやし、水色に染めた髪とそれに似た色の着物を着ている。
雨宿りをしに来たわけではないのは何となく分かった。
「あの、どうかされましたか?
俺に何かついてますか?」
「いや、突然で悪いんだけどさ。兄ちゃん、人間じゃないな?
それも、かなり強い力を持っていると見た」
「そういうお客様も人間ではなさそうですね?」
「何でそう思う?」
「空気からして違いますから」
普通の人間とそうじゃない奴はまとっている空気が違う。
特に、目の前にいる青鬼は異彩を放っている。
異種族という理由だけではない、何かが彼にはある。
「なるほどね、空気か。
確かに、それだけはどうにもできんな」
納得したようにうなずいた。
「せっかく出会えたんだ、兄ちゃんに教えてやるよ。
実はこの雨も俺が呼んだんだ」
渡りに船とはこのことか。
突然現れた雷様が店の売り上げを伸ばしてくれた。
「悪いな、知り合いとここで待ち合わせしてるもんでさ。
どこ行ったんだかな、本当に」
テントの外を呆れたように眺めていたのだった。
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