4 俺が第一号ってことかな?


テントの前を立ち去っても何やら会話を続けていた。

そう簡単に解決するような話でもないらしい。


「大丈夫だった? 何かヤバそうな雰囲気だったから、止めに入ったんだけど」


ただならぬ空気を感じたのか、見かねて助けてくれたらしい。

何かされていたわけではないが、対応に困っていたのは確かだ。


「いえ、ありがとうございました。

ただの夫婦喧嘩だったみたいです」


京也がそういうと苦笑を浮かべる。


「何もこんなところですることでもないだろうに……まあ、きっかけなんてそれぞれあるか」


「そうみたいですね」


「ああ、そうだ。さっきのカレー、美味しかったよ。

他の連中はひいひい言ってたけど」


辛さだけは本当に慣れないと克服できない。

今回はそれを実感した。

余裕が見られるあたり、辛さの耐性はあるということだろうか。


「今回の限定商品なんです。

今のところ、完食したという報告は聞いてないんです」


「じゃあ、俺が第一号ってことかな?

そうだな、あっさり騙されそうな奴に勧めてみようかな」


「イタズラもほどほどに頼むぞい」


「分かってますって。

んじゃ、また何かあったら呼んでね。

似たような奴らがうろついてると思うから」


そう言ってもう一皿買った。

ひいひい言わせているのだから、さすがに食べてくれないのではないだろうか。

サングラスは片手をあげてその場を去った。


「今のが退魔師か。初めて見た。

そういえば、家まで送ってくれたって言ってたな」


いくら吸血鬼といえど、専門家相手にケンカは売りたくないはずだ。

緊張した空気が流れたのも、彼を警戒していたからか。

潮煙にはそういった専門家が駐在しており、バケモノ相手に戦っているらしい。


京也に眠っていた竜の力が再び目覚めた時、駆けつけた退魔師がいた。

ルードラは首を横に振った。


「その人とは違うけど、本当に助かった」


「私服警官みたいなもんなんだろうけど、どれが退魔師なのか、全然分からないな」


テント内で人間を観察していても、全然区別がつかない。

うまいこと紛れているようだ。


「多分、あの子とかそうじゃないかな?」


低身長の女性が歩きながら水を飲んでいた。

まさかとは思うが、カレーの被害者だろうか。


「あのボーダー柄のパーカ着てる子か?」


先ほどの男と似ているかどうかはともかくとして、厚底ブーツにダメージジーンズというそれなりに目立つ格好をしている。


「政府公認のれっきとしたプロではあるんだけどね。

たまに、うちの店に来ることもあるよ」


「へえ、全然気づかなかったな」


「別に京也のことを追ってきているわけじゃないから、大丈夫だよ」


バケモノ相手に叩けても、辛さの耐性はそれぞれらしい。


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