3 腹が立ったな
天は高く雲は静かに流れていく。
その流れと同じように、竜もこの地まで逃げてきたようだ。
その縁で母も竜と出会ったのだろうか。
「人間どもの争いで被害を受けるのはいつものことだから仕方がないとは言え……アレはさすがに腹が立ったな」
「聞いてちょうだい。この人ってば、兵士に自分の庭を荒らされた腹いせに、単身で基地に乗り込んで部隊を壊滅させたのよ?」
「規模はかなり小さかったし、何かの作戦の途中らしく待機している人間も少なかったのもあるんだろうがな。
国内情勢を多少混乱させることはできたかな」
「誇らしくないわよ、全然。
おかげでこっちまで戦火が広がったんだから。
いつもみたいに高みの見物を決め込んでいれば、よかったのに……あなたの激おこポイントが未だに分からないわ」
激おこポイントなんて初めて聞いた。
聞きなれない現代語だ。もしくは、自分で作った言葉か。
セシリアは並んでいるカレーを興味深そうに見ている。
「激辛カレー? そんなもの作ったの?」
「今のところ、挑戦者も少なくてのう……食べてみたらどうですかいや?」
「残念だけれど、遠慮しておくわ。
太陽はどうにかできても、香辛料は未だに克服できないのよね。
この世には美味しい物が山ほどあるというのに」
「人間の血は飲まないのか?」
「一応断っておくが、セシリアはかなりの食道楽なんだ。
というか、好みがうるさい。無駄遣いも多い。
物が増えていくばかりで、一向に減りやしない……」
ブラディノフは頭を抱える。
片づけができないということだろうか。
苦い表情を浮かべているあたり、本当に苦労しているようだ。
「あなたにだけは言われたくないわね。
人間の血でもハマるときは本当にハマるもんなのよ」
「そういう問題じゃない!
一族としての誇りを持って行動しろと言っているんだ。
使いもしないのにあれだけ部屋にため込んでおいて……!」
「別にいいじゃないの、あれくらい。
それに、ちゃんと片付けてんのよ?」
二人は無言でにらみ合う。
どうしたものだろうか、なぜか親近感がわいてきた。
吸血鬼でも夫婦喧嘩はするらしいし、その不毛なやり取りは犬も食わない。
遠巻きに見ている客の視線が痛い。
そろそろ止めに入ったほうがいいだろうか。
「あの、すみません。ケンカするなら別のところでやってくれませんかね?」
サングラスに変なTシャツを着た男が間に入った。
「一応、俺はこういう者なんですが」
手帳のようなものを二人に見せた。
緊迫した空気が流れる。
「……店の前で騒いですまなかった。行くぞ」
「そうね。くだらない話ばかりしてごめんなさいね。
また後で顔出すわ」
二人はおとなしく店の前から去った。
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