2 初めまして



あの後、何回か試食会が開かれた。

辛さで舌が完全に麻痺してしまい、自分の感覚が正しいのかどうかも分からなくなってきた。それでも、食べきれるレベルまで辛さを抑えつつ、限界にたどり着くために何度も調整した。


フェス当日がやって来た。

穏やかな秋晴れもあってか、公園は家族連れでにぎわっていた。


しかし、肝心の激辛カレーの挑戦者がなかなか現れない。

サングラスに変なTシャツを着た男が一番最初の挑戦者だが、彼は無事完食できたのだろうか。


「人間以外も来るって言ってたけど、あまり見かけないな」


「まだ昼間だしね。日が暮れてからが本番じゃないかな」


「他の地域にはいないのか?」


「そういう変な連中がいるっぽいっていうのを聞くけど、実際にいるかどうかは」


「ひさしぶりだな」


白髪に赤い目をした男女の二人組が立っていた。

確かにコスプレする必要がない奴が来た。


というか、こんなに晴れているにも関わらず外で活動できるのか。

吸血鬼は太陽に当たると焼け死ぬと聞いたが、彼らには関係ないのだろうか。


「確か、あの時の……」


凍血の盟主、ブラディノフ。

自分の家族が京也を襲ったことを知り、探し回っていた。

結局は自分の名を汚されたことに怒っており、その汚名をすすぐために裏でいろいろとやっていた。


「初めまして、私はセシリア・ハーロウ。

ブラディノフの妻です。

この度は私たちの家族がご迷惑をおかけしました」


今度は家族を連れてきたか。

ワンピースの裾を持ちあげ、会釈をする。


「これ、よかったら皆さんでどうぞ」


菓子折を丁寧に差し出した。

老人は胡乱気な表情で受け取った。


「さて、こんな天気のいい日に吸血鬼一家がなんの御用で?」


「天気なんていちいち気にしていたら何も楽しめないじゃない。

太陽も星の一つだと分かった時点で、私たちの弱点ではなくなったのよ?」


「それはそれは、天文学者に感謝しなければなりませんな」


「本当にそうね。それでも、日焼けはしたくないのだけれどね。

今日はこの町に竜人がいると聞いて、連れて来てもらったの」


セシリアは京也の顔にぐっと近づいた。

ふわりと香水の香りが舞った。


「第一関門は突破した感じかしら。

もったいないわね、知り合いでもいれば紹介してたんだけど」


「知り合い?」


「竜の力を持つ人って本当に数を減らしているし、できれば協力したかったのだけれどね」


彼女は肩をすくめた。


「私たちの周りにいたドラゴンはかの大戦で、あらかた滅ぼされちゃったしねえ。

だから、あなたみたいな人にはもう会えないと思っていたのよ」


「そんなに激しい戦いをしていたのか?」


「それはそれは大変なことだったのよ。

私たちも自分たちの領域を守るだけで精一杯だったし」


被害にあったのは人間だけではないと言うことか。

死なないバケモノであっても戦争には勝てなかったらしい。


「ワシが昔に相手したのも、そのうちの一頭かもしらんなあ」


「別に構わないわ。その時はお互いに大変だったんだもの」


どさくさに紛れてこちらまで流れてきたのだろうか。

昔は現役バリバリだったらしいが、実際はどうだったのだろう。

闇に葬られている部分だろうから、今は知ることもできない。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る