激辛カレーはドラゴンも食わない
長月瓦礫
1 いただきます
「秋フェス?」
京也は聞き返した。
「そう。この時期になると毎年開かれてるんだ」
ルードラは企画書を手渡す。
潮煙の中央公園で開かれているイベントで、出店や各種イベントが開かれている。
コスプレも許可されており、ハロウィンに便乗した祭りということらしい。
宗教行事と店の経営はもはや別次元になるらしく、新規の客を獲得するためにも参加せざるを得ない。
「コスプレしなくてもいい奴らも勝手に来るが、本当に呑んで騒ぐだけだしのう。
本当に混沌と化すぞ」
老人は穏やかに笑う。
それはまた、ずいぶんと盛り上がりそうだ。
この町は人間以外の異種族たちが数多く暮らしている。
京也もそのうちの一人だ。
彼には竜の血が流れており、春頃は吸血鬼に狙われてばかりだった。
路地裏に追い込まれたとき、ルードラとバハ爺が助けてくれた。
その縁もあり、彼らが経営するインドカレー屋で働くことになった。
半年も過ぎると、名前だけは知れ渡っているらしい。
竜という名前を聞いただけで勝手に震えあがり、逃げていく。
近づきがたい存在であると同時に、高嶺の花というイメージを持たれている。
「いざとなったら、退魔師が何とかしてくれるじゃろ」
実際に会ったことはないが、イメージとしてはバケモノ専門の警察に近いらしい。
国家公務員として認められてはいるものの、その資格を得るハードルは高いようだ。
「毎年大賑わいでの、うちの店も参加させてもらっとるんじゃ」
「いつもは普段出さないようなメニューとか出してるんだけど、今年から京也もいるしね」
二人はにやりと笑った。めったにしない表情だ。
背筋に寒気が走る。急に嫌な予感がしてきた。
「こんなのを作ってみたぞい」
「ちょっと食べてみて」
二人からカレーを差し出された。
見た目は普段と変わらないオレンジ色だ。
「作ってみたってことは、まだ試作段階なのか?」
「僕たちだと感覚が麻痺しちゃってるから、分からないんだよね。
とりあえず、一口だけでいいから」
「そういうんなら、いただきます」
香辛料の香りが鼻を通り抜ける。
普段のカレーとの違いを探している間に、辛さが一気に追い上げてきた。
思わずむせる。
「……これ、食べ切るのキツいんじゃないか?」
「だから、限定10食あたりでどうかなーと思って」
なるほど、ここで差別化をするということか。
辛いものが流行っていることと、数に上限を設けることで貴重な商品というアピールをするつもりらしい。
「売れ残ったらどうするんだ?」
「僕たちのご飯になりますね」
「頑張って売り切ればいいだけの話じゃな」
一気にハードルが上がった。
退魔師の資格を取得するとどちらが高いだろうかと考えながら、カレーを見つめていた。
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