ファフロッキーズ・モンキーズ
草森ゆき
↓
上司にだいぶ怒っていたのでむしゃくしゃしてやった。
最近雨が延々降って、至るところに水溜りができていて、普段は避けていくのだけれどむしゃくしゃして思い切り踏みつけた。そうしたらはまった。ばしゃっとはねたとかそういう次元ではなく、底がなかったからそのまま落ちて、今現在もずっと落ち続けている。時間の感覚はあんまりない。あと落ちているけど落ち続けているとどっちかといえば浮いてるって気分になってきて、Gっていうか、あの黒い塊のほうじゃなく重力というあれが、上から下へが地球じゃ普通だと思っていたんだけれども四方から同じくらいの圧でかかってきて落ちてるっていうか浮いてるっていうか、いやまあかなり落ちている。
元気に飛行しながらこれは明日提出の報告書は終わったな、と明日はとっくに来たかもしれない中考えているとまたむしゃくしゃしてきた。報告書くらい自分で書いてよ、水溜り踏んだら底がなくて永久に落ち続ける呪いにでもかかれよハゲ!
なんてわりあいに前向きに思うのにはわけがあって、落ちているのは私だけじゃなく、ちょっと首を動かせばなんか魚とか、長靴とか、雨粒っていうよりは水でできたサッカーボールみたいな塊だとか、エロ本だとか、折鶴だとか、折れて破れて痛ましい姿の雨傘だとか、バラエティ豊かなラインナップでいつもより多く落ち続けております。
それを見ていると案外ほっとする。ごみっぽいものばかりだからだ。社会のごみたる私も落ちるべくして落ちたのかもしれないと最底辺の気付きを得られてああ人生はただ歩き回る影法師、報告書を出せなかったことによりクビにもなっているだろうしこのままいけるところまでいくしかないよねって俄然思い始めて、いけるってどこにだろうなってふと思って体を捻った。その調子に近くを飛んでいた水サッカーボールにぶつかって、私は水もしたたるいい女になった。
「ふっ……あはは!」
笑われた。声の方向を見ると学生服姿の男の子がいた。飛んでいる、いや落ちている、いやいや飛んでいるにする、はじめての人間仲間には寛大でいたいおねえさん心がある。
「きみ、水溜り踏んだ?」
問い掛けると少年は踏みましたとはきはき答えた。はきはきさに好感を持ったので、世界のバグだよねと感想を述べると同意を得られてよろこんだ。
少年と会話をしながらまだまだ落ちて、どんどん落ちて、落下地点から見るときっと雨水みたいなんだろうなあって笑い合う。
ファフロッキーズ・モンキーズ 草森ゆき @kusakuitai
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
関連小説
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます