第147話 いつか真実を

 しかし。


 そこは、さすがに数々の嫉妬の中で己を貫いてきた神殿騎士卿であるエルヴィン。


 一歩を譲るのも、元従騎士であるアルスランより一日の長がある。



「君の立場は理解しているつもりだ。しかし、王宮からの伝達がきているんだ。今は引いてくれないか」



 神殿騎士卿から望む言葉を引き出せたのか、アルスランはホッとしたようだった。



「承知いたしました。フィルメラルナ様、ご用がおありの際は私をお呼びください。お部屋のすぐ側に控えておりますので」



 ハラハラと両手を揉み絞っているジェシカを伴い、アルスランは正しい騎士の礼を一つ残すと、部屋を出て行った。


 フッと疲れた溜息を一つ落とし、エルヴィンがフィルメラルナに向き直る。



「彼らと、どのようなお話を?」


「えぇと……ひとつ頼みごとをしていたの。その結果が良くなかったから、二人は責任を感じてくれたみたいで。――だっ、だけど、彼らは悪くないの。いけないのはわたし。わたしがもう少し早く気付いていれば、あの二人に迷惑をかけないで済んだのに」



 意図せず、フィルメラルナは必死に訴えていた。


 二人に咎を問われたら申し訳ない。



 そんな彼女を責めるなどせず、エルヴィンはふっと笑った。



「あなたらしい……とでも申しましょうか。もう彼らに問うなどいたしませんよ。必要なことは、あなたが私に教えてくださるでしょう」



 そんな風に言われてしまえば、フィルメラルナは彼に秘密は持てない気がしてしまう。



「……イルマルガリータ様のご遺骨を受け取られたあなたは、きっと真実へと近づきつつあるのでしょう。あなたの良いタイミングでいいのです。私にもいつか話してくださると信じていますから」



 正式に何が決まったというわけでもないけれど、名目上、彼はフィルメラルナの婚約者なのだ。


 誰がその地位に就こうと、神妃という聖女の。



 フィルメラルナの気持ちがどうであろうと、彼は「神妃」に関する真実を知るべき人間だ。



「――ええ、いつか」



 神妙に頷くフィルメラルナを見て、しかし何も疑う目を向けず、エルヴィンは微笑んだ。



「では、参りましょうか。王宮でミランダ王女がお待ちです」



 ここから先、恐らくは。



 最後の真実が待っている。


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