第146話 火花を散らす二人

 と、そのとき、再び扉が叩かれた。


 入室してきた人間は、神殿騎士卿エルヴィン・サンテス。



 鉢合わせてしまった状況で時間が止まった。


 ひぃぃと小さな叫びをあげたのは、ジェシカだろう。



「おまえたち、何をしている?」



 最初に口を開いたのは、むっつりと白銀の眉を寄せたエルヴィンだった。



「わ、わたしが二人を呼んだの。ちょうど今用事が済んだから、ね、仕事に戻って」



 まるでジェシカのように、しどろもどろな口調になってしまった。


 が、ここを収めるには、フィルメラルナの我儘を理由にするのが適切だろう。



「私たちがフィルメラルナ様とお話しをして、何かあなたに不都合でもあるのでしょうか?」



 よせばいいのに。


 なぜかアルスランが、エルヴィンに意見した。


 あたふたとするフィルメラルナを他所に、男性二人の視線は火花を散らしている。



「不都合などない。今、フィルメラルナ様が申されたように、用が済んだのなら出て行くがいい」



 淡々としているようでいて、エルヴィンの声は歴然とした棘を纏っている。



「私は神妃様の正式な護衛騎士です。常にお側に控え、その身をお守りするのが使命なのです」



 以前、王宮へエルヴィンと赴いたとき、護衛騎士であるアルスランは同行できなかった。


 その際の悔しさもあるのか、彼は自分の仕事を盾に正当性を訴えた。



「それはヘンデルどのが決められた人事だ」


「では、神殿騎士卿であるあなたは認めていないと?」



 もはや、アルスランの挑戦的な言葉は疑いようもない。



「護衛騎士が必要だと判断されたのは、ヘンデルどのだと言っただけだ」


「でしたら、エルヴィン様も私の職務を認めてくださっているのですね。護衛騎士として、フィルメラルナ様の誰よりも近くでお守りする役目を賜っていると」



 このままではどちらの立場も危うい。


 お互い譲る気配がない状況に、フィルメラルナは焦った。


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