第129話 リクヴィルの殲滅

「妹?」



 エルヴィンに妹が存在していたなど、まったくもって知らなかったフィルメラルナは、鸚鵡おうむ返しに問うていた。


 それも、彼女とイルマルガリータとなんらかの関係があるのならば、余計気になる。



「……はい、私には行方不明となっている妹がいるのです。ただ、今は私の身内の話でお時間をいただくわけにはいきません」



 やんわり追及を拒絶したエルヴィンは、目的の話へと駒を進めた。



「ヘンデルどの。かの事件についてお教え願えますでしょうか? イルマルガリータ様が故郷に行った災いとは、どのようなものだったのでしょう」



 エルヴィンが神殿騎士卿として正式に決定したのは数年前であり、側に付き添うようになったのもその頃だ。


 それ以前の神妃の難癖は、少しの癇癪程度にしか聞かされていない。


 元より神妃の奇行など、他言無用の極秘事項なのだ。



「あぁ、リクヴィル村のことかね? あの事件は本当に起こった話だよ。イルマルガリータは悪魔の化身よろしく、かの故郷を焼き払い、全ての村人を殺した」


「な、なぜそんなことを!?」



 身体が震えた。


 恐ろしさと共に、意味の分からない悲しみが湧き上がってくる。


 赤子の頃に神殿に迎えられた彼女には、故郷の村など煩わしいだけだったのだろうか。



「故郷に住む人間だけに留まらず、あの娘は過去一度でも村と関わったことがある者を全て洗い出し、全員を殺せと命じて、実行させたのだよ」



 もちろん、彼女と一緒に故郷から神殿に目仕上げられた者たちも、例にもれず全員処刑された。



「ヘンデルどの、そんな気のふれた暴挙を、止める者はいなかったのでしょうか?」



 誰もが抱くであろう疑問を、エルヴィンが訊いた。


 ヘンデルは緩く首を振る。



「イルマルガリータが虐殺を命令したのは、わずか十四歳のとき。私ならば、そんな子供の言う戯言など、聞く耳もたんがね。しかし、国王は違ったのだよ」



 イルマルガリータが、年齢に似合わず大人びた娘だったことは確かだが。


 彼女は〈祈祷の儀〉を頑なに拒み、それどころか、どうやったものか故意に神脈を乱れさせ、リクヴィルの者全員の殲滅を頑なまでに望んだ。



 さらに、その身を盾に自害すると脅迫し、実際、短剣で自身の胸を突き刺したことまである。


 一命は取りとめたが、すでに数ヶ月も祈りが捧げられなかった神脈は歪んでしまい、世界の摂理は均衡を崩しはじめていた。



 そして、とうとう国王が動いたのだ。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る