第八章 王子と王女

第67話 思いもよらぬ客人

 それからまた二日経ったが、雨はまだ降り続けていた。


 本来ならば乾季にあたる今、これだけまとまった雨が降るのは不自然だった。



 どこかで水害が起こり、多大な被害が出るかもしれない。


 フィルメラルナのささくれた心が、ほんの僅かばかり痛んだ。



(イルマルガリータ様は……)



 無理やり神殿に連れてこられてから、随分時間が経っている。


 彼女の行方を捜しているはずの王宮と神殿は、何か情報を掴んだのだろうか。



 それとも依然として、行方知れずのままなのだろうか。


 神妃の代理として間に合うフィルメラルナを見つけたことで、あまり捜索に力を入れていないのだろうか。



 疑念を深めていたところで。


 俄かに扉の外が騒がしくなったのに気がついた。



 侍女が懸命に「神妃様は今は誰にもお会いになりません」と叫んでいる。



 そうだ、誰にも会う気はないのだ。


 そのまま追い払ってほしい。



 冷ややかにそう願ったけれど。


 相反して、扉が徐に開かれた。



 ノックの一つも響かせず、開いた扉から入ってくる二人の姿に虚ろな目を向けた。


 初めて見る人間だ。



 スラリと背の高い黒髪の貴公子と、長く艶やかな鳶色の髪を垂らした淑女……。


 その出で立ちから、かなり高貴な人間のように思われた。



 扉の外には、手を揉る侍女たち。


 その中で、女官長らしき年配の女性が声をあげた。



「ユリウス王子、そしてミランダ王女。たとえ王族であられましても、神聖なる神妃様のお部屋へ、勝手にお入りになることは赦されません」



 王族?


 フィルメラルナが、頭に疑問符を浮かべたとき。



「すぐに、王宮へお戻りくだ――」


「うるさいわよ、おばさん」


「ひっこんでろ、年増女」



 女性の声を遮って。


 男女が揃って口答えをした。



「なっ、なんですって……」



 姿を見なくとも想像がついた。


 女官長らしき年かさのいった女性が、わなわなと怒りに震える姿を。




 神王国ロードスの王子と王女。


 思いもよらぬ彼らの登場に、フィルメラルナもゆっくりと寝台から身をもたげた。


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