第68話 不細工だな

「なんだこの女は」



 心底憎らしそうに、ユリウスという名の王子がフィルメラルナを睨む。


 黒い双眸からは、隠そうともしない侮蔑が溢れている。



「あらあら、おかしいですわね。イルマルガリータの部屋に、違う女がいるなんて」



 どういうことかしら?


 と、王子とほぼ同じ背丈の王女ミランダは、羽扇子で口元を隠し、鳶色の髪を弄びながら、うんざりと吐き捨てた。



「ふん。またあの陰気臭い目録士の戯言だと思っていたが、イルマルガリータの失踪は本当だったのか」


「そのようですわね。でもユリウス、ということは……」



 二人はフィルメラルナの方へと動作を揃えてチョコチョコと近づき、徐に顔を凝視した。


 その額を見て、同時にひぃぃぃと息を潜める。



「見たか、ミランダ。あれは本物の聖痕なのか?」


「知りませんわよ。イルマルガリータのものと同じように見えますけれど」



 一応ヒソヒソと小声で囁きあってはいるが、内容は丸聞こえだ。



「ふん、不細工だな」


「ですわね。イルマルガリータは最低最悪、悪魔の性格をしてましたけど、容姿は超一流でしたから」



 甲高い声音を響かせて、ミランダが鼻で笑い飛ばした。



 完璧な金髪と、宝石のように煌めく緑色の瞳。


 イルマルガリータの美しさは、歴代の神妃の中でも一番と囁かれていた。



 彼女に比べれば、フィルメラルナの容姿など十人並みだ。



「くそ、やられた」


「ほんと、悔しいですわ」



「こんな庶民みたいな女に、代理が務まるのか?」


「甚だ怪しいですわね」



「僕は、この女が神脈を正したと聞いたぞ」


「わたくしは、ハプスギェル塔を解放したと聞きましたわ」



「なら、少なくとも力はあるのか」


「仕方がないですわ、国が乱れたら困りますもの」



「憎らしいイルマルガリータが戻るまで」


「ええ、懸命に働いてもらいましょうよ」



「そうだな」


「そうですわ」



 おほほほほほ。


 ミランダ王女は声高らかに笑声を響かせる。




「失礼します」



 コツコツと幾分強いノックの音が響き。


 返事も待たず入ってきた三人目の人間は、神殿騎士卿エルヴィン・サンテスだった。



「「げ」」



 王子と王女は、声を揃えた。


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