第32話 必然と感じるもの
ある種の使命感のようなものが、胸に染み出していた。
イルマルガリータがここへ戻ってくるかどうかに関わらず。
今、この場に居合わせた自分にとって、必然と感じるものだ。
――彼女が行ったことが何なのか、知らなくては。
それがどんなに罪深いことだったとしても。
受け止めなくてはならないと、強く思う。
反対に。
何も恐ろしいことなどなければ良いのに、と願う気持ちもある。
しかし、それは残念ながら、限りなく薄い可能性のように思えた。
額が熱い。
アルスランと外に出た頃から、どんどん額が熱くなっているようだ。
ちょうど蔦の聖痕あたりから、体内でくすぶる熱が、皮膚を破って飛び出してきそうなほどに。
少し肌寒いくらいの夜風が気持ちいい。
夜間、
警備のため所々に設置されている灯を頼りに、灰色の騎士服を纏ったアルスランの後に続いて歩いていく。
時折、警備兵とすれ違うこともあったが、アルスランの見事な手引きによって、フィルメラルナが発見されるには至ってない。
まだ侍女たちから連絡が届いていないのだろう、静かな闇に虫の声が響いている。
しかし、もしもヘンデルかエルヴィンの耳に入ったならば、このあたりは一気に騒然としてしまうだろう。
こんな夜に騒ぎを起こすのは、本意ではない。
フィルメラルナは、せめて塔に辿り着いてその様子を確認するまでは、静寂な状態を保ちたいと思っていた。
「ここから足元が悪くなります」
歩く速度を急激に落としたアルスランは、素早く途中で調達したランタンに灯を入れ、そっと腕を差し出した。
摑まって進むよう促してくれる。
「ありがとう。でも大丈夫、あっ!」
言った矢先に。
窪んだ場所に足を入れてしまったのか、大きくよろめいたフィルメラルナの体をアルスランが支えてくれる。
少し足首を捻ったかもしれない。
「ご、ごめんなさい」
「フィルメラルナ様、今夜はもうお部屋へ戻りましょう。このような時間にお訪ねした、私が悪いのです。明日、正式に塔へお越しくだされば――」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます