第24話 侍女の共通点

 ひとりの方が、どれだけ気が楽だろうか。



 詰まるところそう思い至ったフィルメラルナは、真っ青な顔をして迎えに来た侍女を無理やり下がらせた。


 少し強引だったが「構わないで」と言い切ると、恐怖に顔を染めて立ち去ってしまった。




 白く長い廊下を、たったひとりで歩いていく。


 神殿内の構図など皆目分からないが、先ほどの侍女から、次の儀式が行われる場所や道順を聞いてある。



 その通りに歩けば、そのうち目的地に到着するだろう。


 辿り着けなければ、それまでだ。



 今のフィルメラルナは、儀式出席完遂を早くも諦めていた。



 なぜなら。



 今の侍女もそうだが、彼女たちの怯える態度に、一つの共通点を見出してしまったからだ。



 彼女たちは、自分と関わること自体をとても恐れている。



 侍女に与えられた仕事は、この世の宝と言われる神妃の世話。


 たとえ嫌でも放棄できるわけではない。


 仕方なく事務的に、淡々と無難にこなしたいのだ。



 そして、もう一つ。



 どうやら今までの神妃は、このような数々の儀式をきちんとこなしていたわけではないようだ、と気づいてしまった。


 歴代の神妃がどうだったかまではフィルメラルナには知る由もないが、少なくとも現在の神妃イルマルガリータが失踪する前はそうだったのだろう。



 だから、こんな風に《率先して儀式に出席する神妃》を、彼女たちは歓迎していないのだ。


 大人しく使命を果たそうとする代理の神妃を、心底気味悪く思っている。



(神妃って)



 いったい、どんな存在なのだろう。


 熱心とは言えないまでも、自分も一応はリアゾ神を信仰している身だ。



 だが、これら数々の儀式。


 従者からの扱われ方。



 イルマルガリータの儀式に対する姿勢。


 どれを取ってみても理解できない。



 特に民間人のフィルメラルナには、その一つひとつについて意味を想像してみることすら難しい。


 懸命に考えたところで、答えなど出るわけもなかった。




 と、その時。



 大理石の廊下に、規則正しい靴音が響いた。


 少し急いでいるのか、悠然という感じではなく、何か目的を持って進んでいるようだ。



 白い神殿騎士服を着た、銀髪の男性。


 遠目でも端正だと判別できる長身の男は、まっすぐにこちらに向かって歩いてくる。



 エルヴィン。


 確か、姓はサンテスだったか。



 颯爽と歩み寄ってきた彼は、そのままフィルメラルナの横を通り過ぎ去ると思いきや、ピタリと歩を止めた。


 サラリと揺れる前髪の向こうで、冴え冴えと光る蒼玉の瞳と視線が絡み、ぐっと息を詰まらせる。



 聞きたいことは山ほどあるはずなのに、なぜだか声が出ない。


 射竦められてしまったかのように、その場から走って逃げることもできない。


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